近鉄、オリックス、ヤクルトで活躍した野球評論家の坂口智隆さん。初の自著『逃げてもええねん』(ベースボール・マガジン社刊)が発売後たちまち重版となるなど、セカンドステージでも充実した活動を続けている。日々前向きにチャレンジを続ける坂口さんに、自分を成長させてくれる存在について聞いた。今回は、球界最年長選手の石川雅規(ヤクルト)から学んだこと。＜4回連続の最終回＞

自分はまだまだあかんなと思わせてくれる人

――『逃げてもええねん』では、ご自身の尊敬する人について書かれていますが、石川雅規投手のお話も印象に残りました。あらためて、石川投手の凄さを教えてください。

坂口　まず思うのは、貪欲さです。現状維持ではない人ですよね。成績がよかったから、これを続けようと思うのではなく、成績がよかったからこれも続けるけど、さらにあれも加えたらもっとよくなるんじゃないかと、ずっと考えている人なんです。野手でいえば2000安打するような人もそうですが、打てなかった僕みたいな人間との差はそこなのかなという気がします。

――近くにいると大きな存在ですね。

坂口　大きいと思いますね。ピッチャーと野手で違うし年齢も違うんですけど、括り的に僕らはベテランで一緒でした。その中でも、自分はまだまだあかんなと思わせてくれる。こちらの体を動かしてくれる人だったのかなと思いますね。

長く続けられる理由

――坂口さんは現役生活を20年と、長く続けられました。石川投手は現役22年目です。なぜそれほど長く続けられるのでしょう。

坂口　僕自身はプロ野球の世界で、ベテラン、若手で括られるのが嫌だったので、抗ってやろうというのをモチベーションにしていました。例えば二軍にいて、若い選手の前で、ベテランっぽいプレー、わかりやすい例で言えば走らなくても大目に見られるというのは嫌で、見られていると意識することで動ける部分がありました。あとは、「これくらいやっていれば、あのくらいの数字を残せるんや」と思われたくない、そこにはしっかり差を見せたいというのもあって、そういう意味では、まだまだ進歩しないといけないと思えたのは、若い選手たちのおかげでもあったと思います。

――石川投手と坂口さんは、ともに二軍で汗を流したこともありました。しっかり準備する坂口さんらの姿に、「これが本当のプロなんだなと思った」と石川投手は話しています(『基本は、真っ直ぐ――』長谷川晶一著)。石川投手が長く続けられる理由はなんだと思いますか。

坂口　好きだけではできないし、向上心だけで続けるというのも難しい。もちろん仕事というのもあるだろうし、いろいろ重ならないとあそこまでにはならないと思います。失敗も成功も、気持ちの面も、取り組み方も、すべて積み上げていかないと成長はできなくて、頑張るための要素は人それぞれ違いますが、いずれにしても続けるというのは一番難しいことだと感じます。うわべでは好きだからとか簡単に言えますけど、人それぞれ持っているいろいろなものが積み重なった結果が継続になる。中身は、その人にしかわからない。それが、その人の深みだと思います。石川さんにはそういう凄み、深みがある。

――偉大ですよね。

坂口　偉大ですよ。勝手に想像するのさえ、おこがましいと思う。そういうことを思わせてくれる人はなかなかいないんですよね。凄い成績やなと、見たらわかるんですけど、そこに行くまでの取り組み方だったり存在だったりが凄い。やり続けることの凄み、そこまでいくメンタルを間近で見て、感じさせてくれて感謝しかありません。

――坂口さんは本の中で、「会話はポジティブな言葉で締める」と書いています。石川投手も取材で常に前向きな言葉をお話になりますが、無理してでも前向きにしている面もあると言います。

坂口　もちろんそうだと思います。そうそう何かを続けられる人っていないと思う。僕自身も続かないことがいっぱいあって、それでも野球をうまくなりたいという気持ちを持って、たどりつくようにと思っていました。勝ち負けにはめぐり合わせもありますが、石川さんには本当にがんばって200勝してほしいなと思います。応援することしかできないですけど、僕はファンなんで(笑)。

写真＝BBM

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