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「次の夢に向かいます」ロッテの名物アナウンス担当・谷保恵美さんインタビュー

 

昨年、2000試合担当を達成したロッテの場内アナウンス担当・谷保恵美さんは誰よりもグラウンドに近い場所からスタジアムの雰囲気を感じてきた。今年、声出し応援が久びさに「解禁」され、応援風景の日常が戻ってきたところで、谷保さんから見たスタジアムの光景について尋ねた。

自分の声しかない状況は責任の重さを感じた


千葉ロッテマリーンズ場内アナウンス担当・谷保恵美さん


――今シーズンより4年ぶりに声出し応援が解禁となり、ZOZOマリンスタジアムにもファンの声が響き渡る光景が戻ってきました。

谷保 3月4日、東京ヤクルトスワローズとのオープン戦で久びさにその光景を見たときは、私たちスタッフ全員が感動しました。ホームである千葉ロッテマリーンズの応援はもちろん、相手側の応援が放送室にまで聞こえてきて、応援歌を一緒に歌うスタッフもいたほどでした。ファンの皆さんの声も、試合を重ねるたびに大きくなっていったように思いますが、野球の応援がこんなにも楽しい気分にさせてくれるものなんだなということをあらためて感じています。また5月8日からはマスクの着用は個人の判断となり、私も4年ぶりにマスクなしでマイクに向かっています。やはりマスクをしながらのアナウンスは特に強い日差しを受けながらの夏場は息苦しさもありましたので、そういう意味でも解放感があってありがたいですね。

――ファンの応援が戻ってきて、谷保さんのお気持ちにも変化がありましたか。

谷保 ファンの皆さんの声は、私に安心感を与えてくれています。というのもファンが声出しをできなかった昨年までの3シーズンは、スタジアムで聞こえる声はほとんど私のアナウンスだけという状況でしたので、寂しさと責任の重さを感じることもありました。もちろん普段から間違えられないという緊張感は持っていますが、やはり音楽と私の声だけという状況はいつも以上の緊張感がありました。でも今は、ファンの応援に乗せてもらってアナウンスができているので、私一人じゃないという安心感があります。

――どのようなときに応援の力を感じますか。

谷保 応援の力の偉大さはチームや選手たちが一番感じていると思いますが、マリーンズの応援は勝負どころのここぞというときにこそすごくて、「ここで勢いが欲しい!」というときに声のボルテージがグンと上がるんです。選手たちの力強い後押しになっているなといつも感じています。

――マリーンズの応援団ならではの特徴はどんなところにあるのでしょうか。

谷保 もちろん12球団どこの応援も素晴らしいのですが、そのなかでもマリーンズの応援は試合の流れに合わせて一球一球、応援が変わったり、選手たちの間に合わせて応援の強弱があったりと、野球の玄人的な感じがすごいなと。どうしたらチームや選手たちの後押しになるかということを、ファンの皆さんは考えているんだと思うんです。それこそ今年、勝ち星を積み重ねてきた要因の一つには、そうした応援の力があったと思いますし、選手たちもそう感じているのではないでしょうか。

バンテリンドームのビジター試合でアナウンス


――6月13〜15日、中日ドラゴンズとの交流戦では、「女性場内アナウンス交流企画」が実施され、谷保さんがバンテリンドームナゴヤに派遣されてドラゴンズの酒井美幸さん、山口由華さんと一緒にアナウンスを務められました。バンテリンドームでは初めて、ドームでのアナウンスも久びさということでしたが、いかがでしたか。

谷保 以前、埼玉西武ライオンズさんとは“ライバル・シリーズ”ということで、お互いのホームに呼び合ってやったこともあったのですが、セ・リーグの球団のホームにお邪魔したのは今回が初めてでした。ドラゴンズさんの企画で呼んでいただいたのですが、バンテリンドームは素晴らしい球場でした。いつもアナウンスをしている屋外球場のZOZOマリンスタジアムとはまったく違う声の響き方をするので、それも新鮮でした。またドラゴンズのアナウンス担当お二人と3日間一緒にいて、いろいろとお話することができたことが何より楽しかったです。普段は同じ仕事をしている方と一緒になることはないので、同業者ならではの“あるある話”で盛り上がりました(笑)。

――“あるある話”の中身は何だったのでしょうか。

谷保 “このタイミングって、一番忙しかったりしますよね?”というような本当にたわいもないことですが、場内アナウンス担当にしか分からないような話でお互いに「そうそう!」と大盛り上がりでした。逆に大きな違いもあって面白かったのですが、マリンスタジアムの放送室はダグアウトと同じようにグラウンドと同じ階にあるので、選手交代などのときは球審の方が放送室に来てくださって、窓越しで直接やりとりをするんです。だからちょっと聞き取れなかった場合は、その場ですぐに聞き返すことができるのですが、バンテリンドームの放送室は2階席にあります。そのために交代時は、控えの審判員から放送室に電話がかかってきて、その電話の声が部屋全体にアナウンスされるという仕組みになっていました。「なるほど、こういうやり方の球場もあるんだなぁ」と思いながら、違いを楽しんでいました。

――マリンスタジアムで球審と直接やりとりをするときには、間違いがないように何か工夫していることはあるのでしょうか。

谷保 ZOZOマリンスタジアムは風で声が流されやすいので、球審も大きな声で言ってくださるのですが、それでも絶対に間違いがないように、私は必ずオウム返しで球審が言った選手名を「○○選手ですね」と口に出して言うようにしています。また球審によっては、例えばピッチャーの場合、左右どちらかの腕を動かして、右腕、左腕を表してくれたり、手で大きく数字を書いて背番号を示してくれたりする方もいますね。

――バンテリンドームでは、元マリーンズでドラゴンズに移籍した涌井秀章投手や加藤翔平選手のアナウンスもしました。

谷保 ドラゴンズさんのほうから2人のアナウンスは谷保さんがぜひしてください、というご提案をいただきまして、本当に恐縮でした。おそらくバンテリンドームにまで足を運んでくれたマリーンズのファンにというドラゴンズ球団の優しいお心遣いで言ってくださったのだと思います。久びさに涌井選手と加藤選手の名前を、以前呼んでいたようにアナウンスさせていただきました。本当に貴重な経験をさせてもらいました。ドラゴンズ球団、ファンの皆さまにも、あらためてお礼申し上げたいです。

――有名な谷保さんのアナウンスを直に聞けて、ドラゴンズファンも楽しまれたのではないでしょうか。

谷保 そうだったらうれしいですね。マリンスタジアムとは違ってバンテリンドームの放送室には窓がなかったので、場内の声が聞こえず、実際にどういう雰囲気だったのかまではちょっと分かりませんでした。ただチームの中には、私がアナウンスすることを知らなかった方もいて、モニターで映し出されたときにびっくりされていました(笑)。3日間を終えて、ドラゴンズの球団の方からは「反響もとても良くて、やって良かったです」ということを言っていただけたので、ほっとしました。

これからCSで勝ち上がるのを期待


――シーズンを通してほかに何か印象に残っていることはありますか。

谷保 今年3月にワールド・ベースボール・クラシックが開催され、侍ジャパンが優勝に輝きました。日本中が熱狂したと思うのですが、特に若い方が野球に関心を抱くきっかけにもなったのかなと。というのも、マリンスタジアムにもこれまで以上に、10代、20代という若い層の観客が増えたように感じています。広報室の中でも「新しいファン層が増えたよね」という話をよくするんです。

――ペナントレースも残りわずかとなり、クライマックスシリーズ(CS)進出がかかるAクラス争いも佳境を迎えています。谷保さんから見られて、今シーズンのマリーンズはいかがでしょうか。

谷保 私が言うのも恐れ多いのですが、若い選手はもちろん、荻野貴司選手や角中勝也選手といったベテランも活躍していて、すごくいいチームだなと感じています。移籍してきた選手も含めて、みんな生き生きとプレーしているので、このままCS、日本シリーズへと勢いに乗っていってもらえたらと思っています。

「スタンドから聞こえるファンの皆さんの声は、放送室にいる私に安心感を与えてくれました」と谷保さんは感謝する


――2位で終わればCSはホームでの開催となり、谷保さんも忙しくなりますね。

谷保 ホームでのCSが実現すれば2シーズンぶりとなりますが、短期決戦はペナントレースとは違う雰囲気があります。緊迫したゲームが続くと思いますが、誰が活躍をしてチームを勝利に導くのかなという楽しみもあります。そしてその勢いのままCSファイナルステージも勝ち上がって、日本シリーズへと突き進んでいってほしいです。私も日本シリーズまで自分の仕事を全うするつもりでいますので、今も体調管理には気を付けるようにしています。再び新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの感染者数も増えてきていますので、最後まで気を引き締めていきたいと思っています。

今季限りでマイクを置く これがラストチャンス


「場内アナウンス担当の仕事は、やり切りました」と谷保さん


――日本シリーズで「千葉ロッテマリーンズ、優勝でございます」をアナウンスするのが、谷保さんの長年の悲願でもあります。今シーズンこそはという思いも強いのではないでしょうか。

谷保 はい、実は日本シリーズがそのラストチャンスでもあります。1990年に入社し、2年目の91年から場内アナウンスを担当して、今年で33年目を迎えました。そうしたなか、今年限りで卒業をすることを決めました。

――ちょっと驚きのあまり言葉を失ってしまいそうになったのですが、決意した理由とは何だったのでしょうか。

谷保 突然決めたわけではなく、ここ数年は毎年辞めるタイミングはいつがいいのかを考えていました。そのなかで昨シーズンは2000試合担当を達成し、また恐れ多くも本(『谷保恵美のまもなく試合開始でございます』ベースボール・マガジン社刊)まで出させていただき、QRコードで声も残していただきました。そういうことも含めて、やり切った気持ちがありましたので「今年かな」と。

――ファンも選手たちも、まだまだ谷保さんに続けてほしいと思うのではないでしょうか。

谷保 ありがとうございます。そう言っていただけるのであれば、本当にうれしいことです。ただこの大好きなスタジアムに私の声が染みつき過ぎました(笑)。それに「もう少しやってもいいのでは?」と言っていただけるときに辞めるのもいいかもしれませんよね。

――来年以降、何かやりたいことは決まっているのでしょうか。

谷保 次の目標としては野球関連ではありませんが、やってみたいなと思っていることもあるので、これからいろいろと模索しながら、それを実現できるように頑張っていこうと思っています。ただひとまず来年は、本の最後にも書かせていただいたのですが、“密かな夢”として抱いてきた一人のファンとしてファンの皆さんと一緒にマリンスタジアムでマリーンズの応援をすることを実行したいと思っています。もちろんライトスタンドでファンの皆さんと一緒に応援したいですし、2階席やネット裏の席からも観戦したいです。それとスタジアム内の売店にもほとんど行ったことがないので、スタジアムグルメを全部食べてみたいです! マリーンズのユニフォームや応援グッズを購入して、万全にして観戦に行きますので、見掛かけたらぜひ声を掛けていただけたらうれしいです!

――谷保さんの声を聞けるのも、残りわずかですね。あらためて、今の心境をお聞かせください。

谷保 球団からは慰留のお言葉をいただいたり、マイクを置くことになることを受けていろいろな企画の提案など、ありがたいお話をたくさんいただきました。こんなにも長い間、大好きなマリンスタジアムでのアナウンスを担当させていただき、とても感謝しております。また、こうしてごあいさつの機会をいただき感謝申し上げます。皆さまのおかげで裏方である私の仕事を紹介いただいたり、スポットライトを当てていただきました。ベースボール・マガジン社さんのお陰で2000試合担当の記念に本まで出版させていただきました。ファンの皆さまにしっかりとごあいさつ(アナウンス)をする形での終わり方の提案もありましたが、やはり本来は一人の裏方なので最後は放送室の中から見守る形で静かに終わることを選ばせていただきました。ファンの皆さまにもご理解いただけたらと思っています。最後になりますが長い間、大好きなマリンスタジアムでアナウンスさせていただき、マリーンズファンの皆さまと一緒にマリーンズを応援することができて本当に幸せでした。33年間、いつも全力で走り続けてきましたし、ホームゲームは一度も休むことなくやってきましたので、自分の中では悔いはありません。最後に担当する試合をしっかりと見届けて、そっと静かにマイクを置こうと思っています。これからも長〜く、千葉ロッテマリーンズを愛してくださることをお願い申し上げます。

取材・構成=斎藤寿子 写真=桜井ひとし


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