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今永昇太ピッチングバイブル

「ボールを前で離せ」は正解? 投球動作に置いて大事なポイントとは/『今永昇太ピッチングバイブル』

 

プロアマ問わず、取材現場で「目標にする投手は?」と訊ねると、実に多くの選手がDeNAのエース「今永昇太」の名前を挙げてくる。今年は3月のWBCで決勝の大一番に先発して日本の優勝に貢献すると、シーズンでは自身初タイトルの最多奪三振を獲得。また1000奪三振や1000投球回を達成するなど、節目の年にもなった。そんな“投げる哲学者”の思考をまとめた書籍『今永昇太のピッチングバイブル』が10月27日に発売となる。それに先立ち、2回にわたりその一部を抜粋して特別公開する。

体幹からのつながりを感じて体側の平面上でリリースする


球界の左腕エースと呼べる存在の今永


 投球動作において大事なポイントはいくつもありますが、基本的にボールが指先から発射された後はすべて惰性です。僕は「投げることはリリースの瞬間にもう終わっていて、その後の動きは自然に流れていく」という認識をしています。言い換えれば、最終的には「いかにリリースへ力を上手く伝えるか」という部分が大事だということです。

 リリースポイントに関して、一般的にはよく「前で離せ」と言われたりもしますが、それを言葉通りに受け取って、腕が体よりも前に出た状態でボールを離すというのは理想的ではありません。そうすると体幹と腕がつながらず、腕の力だけでしか頑張れないからです。リリースポイントの基本は体側(体の真横)で、僕なりの表現としては「“気を付け”の状態から腕を横に大きく広げて上げたところで離すイメージ」。体幹からボールを持った左手までが1つの平面としてつながって投げられるのが理想です。

リースポイントは体の真横。体の前に腕を持って行くのではなく、体幹から左手までのつながりを感じて平面上でリリースできれば、強い力が伝わる


 もっと細かく言うと、「右の腹斜筋から胸や左腕を通って左手首まで」が一本につながるような運動連鎖を意識しています。そして、ボールを少し前(本塁方向)で離したいときには、体幹を捻ってリリースの平面ごと前へ回していけば良いのです。また、そもそも腕が振られる感覚を持ちながら体幹がグッと固まれば、腕は勝手に走ってパッと前へ出ていくものです。その動きが自然と前で離しているように見えるだけであって、自分から「ボールを前で離そう」と意識する必要はない、とも思っています。良いリリースができているかどうかの基準は、ユニフォームの胸に描かれている「YOKOHAMA」や「BAYSTARS」の文字と、自分の肩ヒジのラインが一直線になっていること。「胸の傾き」と「上腕からリリースポイントまで」ができるだけ同じラインに乗っていれば、しっかりと力を伝えることができて、なおかつコントロールも安定します。

立方体をイメージしてボールに純粋な縦回転を加える


 リリースする瞬間の感覚は人それぞれですが、僕が重視しているのは指のアーチ(人さし指&中指から親指にかけてのライン)を固定して、前腕の筋肉のエキセントリック収縮(伸張性筋収縮=筋肉が伸びながら収縮して力を発揮する働き)を感じながら離すことです。以前までは「指のアーチをかぎ爪のように使う」と表現していたのですが、それだと力強くギュッと押し潰すようなイメージも抱かれてしまうのではないかと。実際はボールを握り潰したり、指を伸展させながら指先で押したり、あるいは手首を利かせたりといったことではなく、とにかく遠心力には負けないように指先をグッと曲げて角度を固定。そして、たとえ手首の角度が変わったとしても指の角度が変わらないようにしっかり押さえ、遠心力が掛かったことによる筋肉の伸張をちょっと感じながら指先に引っ掛かる感覚で離すイメージです。

 僕がこの感覚を得て手応えをつかんだのは、2022年の春季キャンプです。球がよく走り、スピードもかなり出ていて、捕手からも「球がメチャクチャ強いね」と言ってもらえていました。ただ、そこで思わぬ誤算が1つ……。以前よりも前腕に大きな負担が掛かるようになったことで、肉離れが起こってしまったのです。そして結局、シーズンの開幕には出遅れてしまいました。それ以降は前腕まわりのトレーニングやケアも欠かさずやるようになったのですが、「良い投げ方だな」と実感していただけに、前腕の張りは盲点でした。

ストレートの回転イメージ


 リリースに関連する部分では、ボールの回転も大切です。僕は、ストレートについてはボールを「球体」ではなく「立方体」として捉えています。そして、その立方体がキレイな縦回転をしたまま進んでいくのをイメージして投げています。そうするとちょうど角(立方体の辺)に対して指が掛かる感覚が生まれ、人さし指と中指で均等に真っすぐ力を伝えることができるのです。この意識が実際、ストレートの回転効率にもつながっているのだと思います。ちなみに「縦回転」と言っても、地面に対して垂直の回転という意味ではなく、重要なのは2本の指の角度に対して縦回転になっているかどうか。腕のアングルが斜めだろうと横だろうと、ボールの回転軸が傾いていようと、両指からの伝わり方が100パーセントであれば良いと考えています。

写真=BBM


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