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幸せな虎、そらそうよ

「アレ」を使った知られざる理由と名将の決め事 前田穂南も愛読する岡田彰布監督著書より

 

大阪国際女子マラソンで前田穂南(天満屋)が日本記録を19年ぶりに更新。大会前に目標を聞かれ、記録更新を「アレ」と話したことでも話題になった。「目標を掲げることで自分にプレッシャー、重い感じがあった。阪神岡田彰布監督が使われたときに、いいなと思って……」と前田。岡田阪神は昨年、優勝を「アレ」と言い換え頂点に立ち、「アレ」は流行語大賞にも選ばれた。その語源となった出来事は……。家族が虎ファンという前田も愛読中で、発売即重版の大ヒット書籍、岡田監督の自著『幸せな虎、そらそうよ』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋、編集してご紹介しよう。

余計なことは「撤廃」する


日本記録更新後、岡田監督の自著『幸せな虎、そらそうよ』を手に笑顔の前田穂南


 オレは昭和の人間です。1957年生まれ、昭和でいうと32年生まれになる。選手はというと、昭和生まれはいない。みんな平成生まれ。でもって、オレは「撤廃」する項目をいくつか挙げた。昭和の人間と言われることになりそうだが、ためらうことはなかった。

 まず「メダル贈呈」のような儀式はやめる。前もって理解してもらいたいのだが、これは何も前年までの在り方を否定しているわけではない。例えば試合中のパフォーマンスというのかな。ホームランを打った選手を迎えるとき、首に手づくりのメダルのようなものをかけていた。チームとしての喜びを表現するものなんだろうけど、オレはどうしてもそれを続ける気にはならなかった。

 だから撤廃した。もともと、パフォーマンスには縁遠い人間だと自分で思っている。それが昭和の人間と呼ばれるゆえんなんだろうけど。ベンチで喜ぶのは一瞬でいい。ほかにやるべきことがあるんやないか。それがオレの考えなんよね。監督の立場として、次はどうする? こうなったら、どう対応していけばいいのか? オレはベンチで次の一手、二手、三手先のことを考えてきた。古いと言われようが、これはずっと変わらない考え方なんよ。

 だからメダルの儀式をやめ、次にキャプテン制も撤廃した。別に選手会長がいる。2023年は近本光司がその役を担ったが、チームキャプテンはどうする? となったとき、選ばなくていいとオレの考えを球団に伝えた。

 ひとりにプレー以外の特別な負担をかける必要はない。逆に言えば、みんな(特にベテラン、中堅)が胸に「C」マークを着けているくらいの気持ちで戦ってくれ。そういう意味合いもあって、Cマークは撤廃した。

 こう書いていくと、なんとも堅い人間と思われるかもしれない。確かに野球に関しては堅い人間だし、頑固である。これは自分でも認めることで、余計なことを考えず、野球に集中する。これをオレは貫きたいのだ。

「アレ」を使う原因となった出来事


 そんな中で、オレなりに決め事をつくった。まず優勝と言葉にせず「アレ」と言うことに決めた。これは2010年のオリックス監督時代がスタートとなっているけど、実はそれ以前に「アレ」を使う原因があった。あまり知られていないかもしれないわ。

 2008年のことよ。ご存じのようにこのシーズン、スタートから飛び出し、シーズン半ばで独走状態に入った。オレだって優勝すると信じて疑わなかった。その半面、勝負事は何が起きるか分からない。自制するように、自分なりに優勝の2文字を封印したのだ。

 ところがあるコーチがトラ番に囲まれ、「優勝間違いなし」的なコメントを発している記事を見た。そんな簡単に言っていいのか。さすがにそのコーチに「軽々しく優勝なんて言うな」と伝えたわ。そんなことがあってのそのシーズンの終盤。例の巨人の猛追を受け、最後、逆転を許してしまった。2005年には優勝しているけど、改めて簡単なものではない……と肝に銘じながら、オレは責任を取って監督を退いた。

「アレ」の語源はそこからなんだけど、2023年シーズンは「アレ」がファンの間にも浸透。オレ自身、ますます言えなくなっていただけに、リーグ優勝した日、ようやく「優勝」と言葉にできたのが、ホンマ、気持ちよかった。
 

「グータッチ」でなく「パータッチ」


 ほかに、もうひとつ。「グーかパーか問題」やね。いまの野球、得点したり抑えたりすると、みんなで「グータッチ」するのが習わしのようになっている。有名なのが原辰徳前巨人監督のグータッチなのだが、オレはどうも違うと気になっていた。

 ジャンケンではグーより強いのがパーやないか。それなら阪神はグータッチをやめて、パータッチにする。なんでも強いほうがいいに決まってるやろ……という発想で、パータッチするよう選手に伝えた。選手も笑いながら受け入れたようで、オレのこだわりが「パー」になって出ているということなんよね。

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写真=寺田辰朗

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