ファイターズ創設50周年にあたり栄光に彩られた歴史、数多のスターたちを網羅した『ファイターズ50年史』が発売中。そこで誌面の一部を週ベ特別編集版にて「ちょっと出し!」。「専属捕手」として厚い信頼を得た鶴岡慎也氏がダルビッシュ有の実像を振り返る。 現状維持をよしとない
プロ野球選手としての“格”が違う、というのは選手自身が一番分かるものです。初めてダルビッシュ有投手と鎌ケ谷で話したときも、すでにトップ選手のオーラがありましたし、「違う世界の人だな」と感じていました。実際、最初にボールを受けたときも「ドラフト1位のピッチャーの球だな」と思いました。ストレートはすごくしなやかに伸びてきて、スライダーは曲がるし、フォークも落ちる。「こういうピッチャーがエースと呼ばれる存在になっていくんだろう」と思ったものです。
初めてバッテリーを組んだときも、試合中に変化球の曲がりを変えたり、落とし方を変えたりして、「ものすごく器用なピッチャーだな」と思いました。彼自身も「僕は変化球投手です」と言いますが、変化球に対するこだわり、もちろん質も、素晴らしいものがありましたね。
何より飽くなき向上心が強かった。イニングごとに「スライダーの曲がりを変えました」とか「フォークをシンカー気味に落としました」とか、本当にすごいなと感じていました。圧倒的な才能やフィジカルに恵まれてもいたのですが、彼の最大の強みは現状維持をよしとはしない、飽くなき向上心にあったと思います。トレーニングや栄養学についても彼から勉強させられることが多かったですし、一番身近にトップアスリートがいたことで、自分も成長することができました。
投球に対する執着、執念
ダルビッシュ投手と一軍でバッテリーを組む機会が増えていったのは2006年からです。信頼されていたかどうかは分かりませんが、ワンバウンドを止めることができたというのは、バッテリーを組む機会が増えたひとつの理由かもしれません。広い札幌ドームではキャッチャーがボールをそらしてしまえば、一塁ランナーは三塁まで、二塁ランナーはホームまでかえってきてしまいます。だからこそ、彼のものすごく曲がるスライダーや落ちるフォークを「絶対に後ろにそらさない」という気持ちは人一倍持っていましたし、ワンバウンドを止める技術、ブロッキングに関しては信頼してもらっていたのかな、と思います。
あれだけすごい球を投げる上に、細部にもすごくこだわっていました。自分のクセを盗まれるとか、セカンドからサインをのぞかれるとか、純粋に自分のボールで勝負できずに打たれることをものすごく嫌っていました。だから試合中に何度もサインを変えることもありました。
あれだけのピッチャーが、細心の注意を払って勝つための最善策をとるわけです。ピッチングというものに対する執着、執念、絶対に相手バッターを抑えるんだという強い気持ちも、どんなピッチャーよりも強かったですね。ボールの質に加え、強い気持ちやメンタルも備えているわけですから、最強のピッチャーとして君臨していたのも当然です。
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