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2019日本シリーズ展望

井端弘和(野球解説者)が語る 短期決戦“鉄の掟”

 

現役時代に日本シリーズに5度出場(日本一1度)、2013年のWBCでは東京ラウンドMVP、大会ベストナインに輝くなど、数多くの短期決戦を経験してきた井端弘和氏に、日本シリーズを戦い抜くための鉄則を聞いた。

セ・リーグのCSファイナルステージでは4試合で3本塁打を放ち、MVPに輝いた岡本和真。好調と勢いをキープした好例だ/写真=小山真司


【鉄則1】受けるな! 攻めの姿勢で


 日本シリーズは全部で5度(2004、06、07、10、11年。すべて中日時代)出場していますが、実はあまり良い成績ではないんです。しかし、「井端は短期決戦に強い」という印象を持っている方も多いようで、それはなぜかと理由を聞いてみると、例に挙げられるのは2013年のWBCでした。ありがたいことに、ブラジル戦、チャイニーズ・タイペイ戦でのヒットがまだ、皆さんの記憶の中にあるようですね。

 確かに13年のWBCは、チームとしては準決勝で敗れてしまいましたが、個人的には思うような結果が残せたと思います。プレーヤーとしての選出ながら、首脳陣の皆さんには「お前はこちら側寄りだからな」などと言われつつ、でも、このときの代表の正遊撃手だった坂本勇人(巨人)から「レギュラーを奪ってやる」と気持ちも入っていました。では、なぜWBCで結果が残せたかと言えば、それは過去の短期決戦、日本シリーズでの失敗を生かせたからです。

 日本シリーズで私がおかした失敗は、受け身であったことだと思います。ちょうど交流戦がスタートしたころですが、パ・リーグのチームとの対戦機会はほとんどないに等しいので、打席ではじっくりと相手ピッチャーの様子を見るようにしていたのですが、このような短期決戦では継投も早め。見ているうちにポンポンとつながれ、試合も消化していきました。レギュラーシーズンとの違いはまさにそこで、常日ごろから慎重派の自分としては、いつもどおりの姿勢で臨みましたが、これでは爆発力は生まれませんでした。

 5度のシリーズではなかなか普段の野球が抜け切れず、苦労しましたが、大いに反省し、攻めに転じたのが13年のWBCだったわけです。WBCのような国際大会は、日本シリーズよりもさらに未知のピッチャーが相手となります。知らないなら、どんどん攻めていってしまおう、こちらから仕掛けてやろうと。日本シリーズでも、この攻めの姿勢が必要だったということでしょう。

【鉄則2】深読み厳禁! シンプルに


 もう1つ、大切なことが気持ちの切り替えと、勢いに乗ることのバランスだと感じます。日本シリーズは最大で7戦(最少で4戦)まである中で、相手はいわゆるシリーズ男を作りたくないと考えるものです。つまり、早い段階で何本かのヒットが出た選手を乗せたままにしたくない。当然、警戒してくるものなのですが、その対応をしっかりと見極めることが重要でしょう。ただ、私の経験上、判断の加減は非常に難しいと感じています。

 初めて日本シリーズに出場した04年(対西武)にこんなことがありました。第1戦はノーヒットでしたが、第2戦に4本打って、私は考えました。「これで攻め方が変わるんじゃないか?」と。あの打席ではこう打ったから、次はこうなる。そうすると、その次は? といろいろ深く考えて第3戦の打席に立ったのですが……。実は相手はそこまで深く考えておらず、配球はそのまま力で押してきて、私は凡打です。「考えるな」というのは無理がありますが、ヒットが出ているならば、そのままの勢いでいくのも短期決戦では1つの手であることを痛感しました。私は先の先まで考えて、深みにハマってしまった。これが長丁場のレギュラーシーズンならば正しいのでしょうが、やはり、短期決戦ではもう少し考えをシンプルにしたほうが良いというのが私の結論です。

 気持ち的に乗っていける選手が強い。結果はどうであれ、日本一になればいいやと思ってプレーできる選手が強いのでしょう。選手にとってはもうひと踏ん張り。体にムチ打って、最後まで面白い試合を見せてほしいですね。


PROFILE
いばた・ひろかず●1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。現侍ジャパン内野守備・走塁コーチ。堀越高から亜大を経て、98年ドラフト5位で中日入団。2014年に巨人に移籍し、15年に現役引退。現役時代はゴールデン・グラブ賞7度受賞の名遊撃手。

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