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打者を牛耳る MLB級ストレート廣畑敦也(三菱自動車倉敷オーシャンズ・投手)「目指しているのは、周囲に良い影響を与えられる人です」

 

インパクト十分の全国デビューだった。昨年11月の都市対抗の開幕戦で前年覇者・JFE東日本に1失点完投。最速154キロ右腕は2回戦でも好救援を見せ、若獅子賞を受賞した。メジャーレベルと言われる真っすぐの回転数を武器に、存在感を見せる。
取材・文=寺下友徳 写真=佐藤真一

豪快な投球フォームは、マウンド上で175センチの数字より大きく見える


 三菱自動車倉敷オーシャンズは勤務後、夕方から練習を行う。廣畑敦也は総務渉外部に配属。平日はフルタイムで企業ルールの管理のほか、社内報の編集や工場見学のアテンダントなども担当する。広報的側面も担うフレッシュマンらしく、自社製品のストロングポイントを語る。

「三菱自動車の良さは、加速性と安定性。僕はパジェロに乗っているんですが、抜群です。水島製作所では軽自動車を製造しているんですが、他社と比べても優れていますね」

 廣畑は昨年、マウンド上でも自ら「加速性・安定性」をアピールした。

 都市対抗予選でチームを16年ぶりの東京ドーム出場へ導く(敢闘賞)と、本戦ではさらに輝きを増す。JFE東日本との開幕試合では「高めに狙って投げたストレート」が威力を発揮。自己最速を2キロ更新する154キロをマークし「超攻撃野球」を展開する前回大会覇者を相手に、1失点完投勝利を挙げた。セガサミーとの2回戦も2点を追う5回途中から救援し、打者10人に対してパーフェクトリリーフ。「勢いだけで投げていた」と本人は振り返るも、トラックマンが表示したストレートの回転数は「2645」とMLB級の数値をたたきだした。8強進出を逃すも、12回1/3で1失点と、強烈なインパクトを残した。12月3日の閉会式では、新人賞にあたる若獅子賞を受賞。忘れられない23歳の誕生日となった。

桑田&球児が原型にあるフォーム


 玉野光南高で甲子園出場経験(1990年春)を持つ父の影響を受け、小学3年時に屋島源平ウイングスで野球を始めた。5年生までは「ボールが速く動いて、捕球するのが怖かった」。1学年上の左腕・塹江敦哉(広島)とバッテリーを組み、6年時には二塁手兼投手。転勤先の香川から岡山に戻った京山中で投手がメーンとなり、3年時には岡山市選抜の一員として中国大会に出場している。「桑田真澄さん(現巨人コーチ)と藤川球児さん(元阪神ほか)のイメージが合わさりできた」。独特フォームの原型は、中学時代に作られた。熱烈なヤクルトファンである父の影響により、かつてスライダーでNPBを席巻した伊藤智仁(現ヤクルトコーチ)が好きな投手。「敦也」も、古田敦也(ヤクルト元監督)が由来だ。

 父と田野昌平監督が同級生だった縁もあり、高校は父と同じく玉野光南高へ進学。1年夏の大会ベンチ入りをかけた明徳義塾高(高知)との練習試合では当時、2年生の岸潤一郎(現西武)に140メートル弾を浴びた。同夏の甲子園のベンチ入りを逃すも、当時、甲子園のスターだった岸との対戦を経て「全国レベルを知ることができた」と語る。

 2年秋からエースも同秋は県大会初戦敗退。一冬を超え、精神的に成長を遂げたが、3年春は岡山理大付高との2回戦で惜敗(1対3)。2つの黒星で、廣畑に危機感が芽生える。「3年春以降、ブルペンで1球ごとに捕手と『ボールどうだった?』とたずねるようになった」。現在につながる集中力持続法、捕手目線で、相手打者との駆け引きを覚えた。

 最後の夏は準決勝敗退。8回まで双方無得点。玉野光南高は9回表に2点を先制も、その裏に3失点でサヨナラ負け。「実は5回からは熱中症で記憶があまりなかったんですが、その中でもベストに近い投球ができた」。甲子園には届かなかったが、創意工夫を重ねた3年間だった。

「大卒でプロに行こうと思った」

 帝京大では出会いに恵まれる。日産自動車などで活躍後、同大学でコーチを務めていた木寺徹氏(現・駿河台大コーチ)だ。「球速は力んで投げようとしなくても、8割の力で出る」との助言を受け、下半身主導の投球フォームを習得。緩急としてカーブにも取り組んだ。1球1球を大事に投げる地道なネットスローが、回転数の多いストレートの土台をつくった。トレーナーからの専門的なコンディショニング指導、医療技術学部で学んだ理論も活用。心身とも成長した廣畑は4年秋、高校時代から13キロアップの151キロに伸ばした。

 首都大学リーグのライバルも刺激になった。1学年上の日体大・東妻勇輔(現ロッテ)からは、スライダーの握りを教わったという。背丈が近く、パワーピッチングの共通点もあり、学ぶべきことは多かった。

課題は変化球で空振りを取る精度アップ


大学4年間は東京で過ごし、地元・岡山へ戻った社会人1年目で大ブレーク。笑顔からも、充実度が見える


 プロ志望届は提出せず地元・三菱自動車倉敷オーシャンズに入社した。「社会人では練習が自分に任されている中、大学で『自分の環境を自分で整える』方法を学んだのは本当に大きかった」。プロへの再挑戦を決めた廣畑にとって、社業と野球を両立する同社は、最高の環境であった。

 社会人でも、指導者に恵まれた。「いろいろな材料を提供してくれる」と語る永峯康政コーチの存在が大きい。回転数を測定する器具で自身の数値が2500回転であることを知り、投球の組み立てに生かされた。かつてBCL/石川に在籍し、チームで2本柱を形成する先輩右腕・矢部佑歩からも、多くを学んだ。

 今年は大卒2年目のプロ解禁年を迎える。首藤章太監督は「1年間、大黒柱として投げ切れるようになってほしい」と期待を寄せる。東京ドームでは分かっていても打てないストレートに手応えを得た一方で、冬場は変化球の精度アップに努めてきた。得意のカーブで緩急をつけながら、縦とカット気味の2種類のスライダーに加え、チェンジアップに近い変化をするフォークを織り交ぜる。

「都市対抗が終わった後も会社、地域の皆さんに喜んでいただきました。春までに、変化球で三振を取れる投手になりたいと思っています。最終的に目指しているのは、周囲に良い影響を与えられる人です」

 目標に「やるか、やらないか」を掲げ、座右の銘には、西郷隆盛が好んだ「敬天愛人」を挙げる。昨年のセ・リーグ新人王の広島・森下暢仁と同世代。大学時代は次元の違う場所にいたが、社会人2年で、同じ舞台で戦うための実績を残していく。

PERSONAL CHECK


50メートル走/6.0秒
遠投/100メートル
背筋力/230kg
握力/右54kg左54kg
視力/左1.0右1.0*コンタクト着用(裸眼では両方0.6)
足のサイズ/27.5cm
頭のサイズ/58cm
ニックネーム/あつみょん「シンガーソングライター『あいみょん』が好きだから」
名前の由来/古田敦也(ヤクルト元監督)
自分の性格を分析すると/「明るい」かつ「適当」
好きな食べ物/ブリの照り焼き
嫌いな食べ物/メロン
趣味/コーヒーを飲むこと、カフェ巡り、ギター
マイブーム/コーヒー豆の試食
野球以外の特技/バレーボール、逆立ち「本塁からマウンドまでは行けます」
最近感動したこと/読書「自分だけの答えが見つかる13歳からのアート思考」
1日の睡眠時間/5時間程度「効率よく眠れるほうです」
休日の過ごし方/まずコーヒーを煎って飲んでから、コーヒー店巡り、動画観賞、ドライブ
好きなテレビ番組/「千鳥の相席食堂」「テレビ千鳥」
好きなプロ野球選手/伊藤智仁(ヤクルトコーチ)
好きな球団/ヤクルト「父がファンだったので」
好きな女性のタイプ/泉里香、守屋茜(櫻坂46)、森みはるさん(26時のマスカレイド)
リラックス法/コーヒーの香りでアロマ効果を感じること
好きな言葉/「敬天愛人」
尊敬する人/ 父と石井康雄さん(LEAVES COFFEEAPARTMENT店長)
将来の夢/「プロ野球選手になって記録より記憶に残る選手になること。珈琲店を自分で開くこと」
印象に残っている試合/帝京大での最終登板「負けたら入れ替え戦に行く状況で、人生で一番いい投球(4安打11奪三振完封)ができました」
野球哲学/やるか、やらないか「まずやってみて、そこで判断することが大事だと思います」
ライバル/千野啓二郎(Honda)杉崎成輝(JR東日本)藤井健平(NTT西日本)「大学時代に対戦した東海大出身者。森下暢仁(広島)は大学時代からレベルが違い、ライバルとは見られませんでした」
グラブ・スパイクのこだわり/「グラブは山本由伸(オリックス)と同じ『Ip Selectクレアシオン』ひもは横綴じですが、グラブは縦綴じです。スパイクはアシックスです」
プロを意識したきっかけ/野球を始めてからの夢
目指す選手像/伊藤智仁(ヤクルトコーチ)「現役時代の回転数とかはスゴイです」
最速、変化球/154キロ、140キロ台のスライダー、135キロのスプリット、115キロのカーブ
フォーム/「中学時代から基本は変わっていません」
高校通算/0本塁打「八番打者でした」

昨年11月の都市対抗開幕戦[対JFE東日本]では1失点完投勝利。ピンチでは真っすぐで押す投球で、強力打線が売りの前年覇者を下した[写真=佐藤雄彦]



PROFILE
ひろはた・あつや●1997年12月3日生まれ。岡山県出身。175cm 79kg。右投右打。高松市立屋島小3年時に屋島源平ウイングスで野球を始め、岡山市立京山中を通じて軟式野球でプレー。玉野光南高では2年秋からエースとなり3年夏は県4強。帝京大では4年秋に最速151キロをマーク。首都大学リーグ通算31試合、5勝9敗。昨年入社した三菱自動車倉敷オーシャンズでは都市対抗中国地区予選で32回を投げ、防御率1.41で敢闘賞。チームを16年ぶり都市対抗に導くと、本戦では前年覇者・JFE東日本との1回戦で1失点完投。2回戦も好救援し12回1/3で1失点。若獅子賞を受賞している。

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