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プロの視点 元日本人メジャー 藪恵壹に聞く

田中将大は日本ですぐに活躍できるのか?カギは日米ボールの差にあり【藪恵壹の視点】

 

日本とアメリカの野球とベースボールにはいろいろな違いがある。7年間メジャーのスタイルに慣れた田中将大が、すんなりと日本の野球スタイルに戻せるのか!?MLBから楽天と、同じ経験を持つ元日本人メジャー・リーガー、藪恵壹氏に違いなどを聞いた。
取材・構成=椎屋博幸 写真=Getty Images

重くて滑りやすいメジャーの公式球を投げ続けてきただけに、まずは日本の公式球を以前投げていたときのような感覚にいかに早く戻せるかがカギとなる[写真はヤンキース時代]


 無敵のエースにも、7年のブランクの影響はあるのか!? メジャーでは6年連続2ケタ勝利を挙げ、通算78勝46敗と「32」の貯金を作った投手だけに、楽天復帰はチームにとって優勝への弾みとなるはずだ。

 しかし開幕後、連勝記録を作っていた2013年のときのような姿を開幕から見られるのか──。やはり7年間、メジャーの、ベースボールの環境に慣れ、戦い続けた分だけ、以前のような感覚にすぐには戻れない可能性が高いと藪恵壹氏は言う。

「私の経験では、最初に違和感があったのはボールでしたね。メジャーに行くときは、メジャー球は滑るという感じはありましたが、逆に日本に帰って来たときはボールが『軽過ぎ』と感じました。カラーボールを投げているような感覚で、球が指先に掛からないし、重みを感じないので、投げていてもなかなか、投げている実感をつかむのに苦労しました」

 さらに日本の公式球はメジャー球に比べて品質が良いこともあり「ボールを握ると軟式ボールを握っているような感じもあった」と藪氏は言う。その感覚がなくなるまでかなりの時間を要したそうだ。藪氏は、シーズン途中で日本(楽天)へと帰ってきたこともあり、実戦の中で日本のボールにアジャストする必要があったが「田中の場合は、キャンプからじっくり調整ができる分だけ、アジャストへの時間を作れるのは利点です。もし開幕してもその違和感が残っていたら、苦しいスタートになる可能性はあります」。

 自身の体の変化もある。プロ野球の公式球よりも重く感じるメジャー球を投げ続けると、徐々に腕に筋力がついてくるため、投球がパワーアップしてくる。そのために日本に帰ってきたときにプロ野球のボールが余計に軽く感じる可能性があるとも指摘する。

 一方で日本ではシーズンを通じて疲れをあまり感じずに投げられる可能性は高い。メジャーでは7年間、中4日の先発をこなしてきた。一方、日本では5、6人のローテーションで中6日が当たり前。しかもメジャーはほぼチーム帯同だが、日本では「あがり」といって先発は登板日以外には先に帰っていいルールがある。

「中6日で回れるというのは、中4日で投げていた投手にとってはめちゃくちゃ楽ですよ。ボールの軽さにさえ慣れてしまえば、田中将の実績から言えば、貯金は2ケタいってもおかしくない活躍をしてくれるはずですよ」と太鼓判を押す。

「それと同時に若手が多く、正捕手がなかなか決まらないチームで、田中将が捕手を育てていくと思いますね。それがチーム力アップにもつながっていく。田中将は誰を女房役に指名するのか。私はそこにも興味があります」

 日本で野球を始め、日本のスタイルで育ってきただけに、復帰はスムーズに行くと思いがちだ。しかし、7年間のブランクはやはり大きい。その感覚の違いをいかに早く元に戻せるかが今季の活躍に掛かっているのだ。


PROFILE
やぶ・けいいち●1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

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