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「一発病」はなぜ生じるのか?【データで解析 野球の謎!? Vol.8】

 

上原のようなフォーシームの特性を持つ投手はリスクのある高めへ投げ込むことで打者を封じている


内角高めのボールはリスクと隣り合わせ


野球界で当たり前のように使われている言葉やプレー。「結局、それってどういうこと?」と聞かれると、意外にうまく説明できない事象を、データや数字を使って解析していく。第8回のテーマは「一発病」だ。

 前回のVol.7で内角高めのボールは平均打球角度がもっとも大きくなっている一方で(図1)、平均打球速度はもっとも遅くなっている(図2)ことを紹介しました。Vol.1で解説したように、ボールの打球飛距離は打球速度と打球角度の組み合わせで決まります。つまり、内角高めのボールは一方の要素(打球速度)においてはリスクが低く、もう一方の要素(打球角度)ではリスクが高いコースということです。

(c)Nextbase Corp.


 さて、俗に「一発病」という投手に対する言葉(症状)があります。「被打率は決して高くないのに、もしくは被打率のわりに、なぜか被本塁打率が高い投手」と言えばいいでしょうか。「一発病」に陥りやすいのはVol.3で解説した「ノビのあるボール」=「平均的な変化量よりホップ方向に変化するフォーシーム」を武器とする投手です。「ノビのあるストレート」を投げると言われる上原浩治投手(巨人)のMLB時代のフォーシームの変化量は、MLB投手の平均的なフォーシームよりも約10センチもホップ方向に変化しています(図3)。

(c)Nextbase Corp.


 ホップ系の「ノビのあるボール」を打者にとってより浮き上がっているように見せるには、高めに投げ込むことが有効になります。また上原投手のフォーシームはシュート方向へも平均より大きく変化しているため、右打者の内角へ投げ込むことでボールの特性を最大化することができます。打球速度が遅く打球角度のつきやすい内角高めでボールの特性が最大化されるというのは、被打率の低いフライボールピッチャーというMLB時代の上原投手のイメージとも合致します。

 このように「ノビのあるボール」は高めに投げ込むことでボールの特性が最大化されますが、前回のVol.7で解説したように総じて高めは平均打球距離が大きい=長打になりやすいコースです。自らのボールの特性を最大化することで被打率は下げられますが、もともとリスクのあるコースであるため少しのコントロールミスが長打、さらには本塁打につながる。これが「一発病」の正体の一つではないでしょうか。

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