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香坂英典コラム 第28回 強く握った拳を高く突き上げる姿を見せてほしい・清原和博【後編】

 

ファンに向け、拳を突き上げる清原


お立ち台拒否?


 東京ドームでの一戦、巨人は勝利する。その試合はチーム全員が機能した素晴らしいゲームであったが、僕の管轄であるヒーローインタビューの該当者が決まらないでいた。勝利打点や決勝ホームランもなく、ピッチャーも先発、継投のラインアップに、特に光る選手はいなかった。その中で、断然貢献度の高い存在として光ったプレーヤーが清原和博だった。攻撃ののろしを上げる2本の二塁打で出塁し、スリリングな2度にわたる好走塁でグラウンドを駆け回った。そして、何よりも東京ドームを埋め尽くした多くのファンが清原の登場を待っていた。

 僕は清原のそばへ行き、「キヨ、お立ち台だ」と言うと「僕はいいです」と下を向き、2本の自分のバット、ファーストミット、スパイクを持ってロッカーへ戻ろうとした。いいですってなんだよ? と思った僕は「キヨ、拒否はダメだ! 拒否は」と言いながらキヨの前に立ち塞ふさがった。キヨは僕に体当たりして、力ずくで僕を押しのけようとする。すごい力だ、突き飛ばされるかと思ったが、そのとき後ろから監督担当広報の小俣進さんが僕の体を支えてくれ、「キヨ、拒否はダメだ」と言いながら加勢してくれた。

 2対1で相撲を取るような格好でぶつかった甲斐があり、清原はようやく僕らの気持ちを分かってくれ、そのままお立ち台に上がってくれた。スタンドは割れんばかりの大歓声、キヨが拳を握り締め、「ありがとうございました!」と右手を高く上げると、さらに歓声は沸き上がりファンはその姿に酔いしれた。ホントはちょっと怖かったけど小俣さんにも助けられ、僕は任務を果たせたことにホッとしていた。

 ただ、なぜ清原は、頑なにお立ち台を拒否しようとしたのか……。実はこのとき、清原はシーズンオフのゴルフのときに一緒に撮った写真の人物が反社会勢力の関係者ではないかという週刊誌の報道を気にしていたようだった。僕はそのことは知っていた。しかし、多くのファンが待っているお立ち台に乗らないということは、プロ野球選手としてあってはならない。

 ヒーローインタビューが終わり、ロッカーに戻って来たキヨは僕のところにやって来て「ありがとうございました……」とすまなそうな顔で軽く会釈した。僕は笑顔で「キヨ、すごいだろ。あの歓声は」と言うと、キヨは小さく微笑んだ。体を張って良かった。僕たち裏方は、この選手の「ありがとう」の言葉に支えられながら仕事をしている。監督命令が背中を押してくれたのも忘れてはならない。

清原との対戦成績は1死球


 実は、僕はキヨと1打席の対戦をしたことがある。とは言っても草野球の話で、当時の「生でダラダラ行かせて」という日本テレビでの番組内でのことだ。巨人チームと元プロ選手チームで対決をするという企画のものだった。巨人の主力選手も多く出演したことで、僕も当然、収録場所の東京ドームへ足を運んだ。僕は選手がケガなどなく、滞りなく収録を終えることを見届けるのが仕事だ。

 巨人チームと対戦するのは・・・

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