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裏方が見たジャイアンツ

香坂英典コラム 第29回 優勝祝勝会、俗称「ビールかけ」の舞台裏

 

00年優勝で長嶋監督の胴上げ


劇的だった2000年の優勝


 各チームが一丸となって「優勝」の二文字に向けて戦うペナントレース。2月の春季キャンプから戦いの火ぶたは切られ、10月までのおよそ9カ月の間、選手たちは栄光を求め、「勝負師」として戦い続ける。

 そしてやってくる優勝の瞬間、勝利の完結。長いシーズンの苦闘、苦難を乗り越えて勝ち取った喜びを爆発させられるのは、握手、抱擁、胴上げ、そして選手たちが待ちに待った祝勝会、そう「ビールかけ」だ。

 僕が裏方として見てきた「ビールかけ」。日本一も合わせて何度経験したか……。まあ、それはどうでもいい。なぜならば、「ビールかけ」の輪の中に入れるのは、長いシーズン苦楽をともにした戦士に限られるからだ。僕らはその輪の中には入れない。周りで動く僕たちは、それをお手伝いする立場の裏方だからだ。

 巨人軍の場合は、優勝したそのシーズンに一軍に籍を置いた選手は関東地区の試合であれば全員が球場に呼ばれ、ユニフォームを着て、胴上げに加われる。2000年のシーズン、東京ドームでの対中日戦(9月24日)、9回4点のビハインドのケースで江藤智が同点満塁ホームラン、続く二岡智宏が決勝サヨナラホームランで劇的な大逆転優勝をした。

 勝てば優勝というこの試合、ベンチ裏には、二軍ながら、その年に一軍登録を経験した選手たち十数名が胴上げに参加すべくユニフォームに着替え、全員がベンチ裏のテレビのモニターを覗き込み、優勝の瞬間を待っていた。

 ただ、得点差は4点、待機していた選手のほとんどは、さすがにこの日の優勝はないなと思っていたのか、何人かの選手はユニフォームの上着を脱ぎ、ベルトを外し、アンダーストッキングも履かず、スリッパを引っ掛け、ソファに横たわっている者もいる状況だった。

 9回裏の巨人の攻撃、先頭打者の元木大介のカウントがスリーボールになった。僕はベンチ裏の控室に行き、胴上げはないのではと思っている選手たちに大きな声で言った。「おい、大介が出たら、何が起きるか分からないぞ! 準備はしておけよ!」。

 しかし、なんでだろう……、僕はこのとき、この試合はこのまま終わらないという何か不思議な予感のようなものを感じていた。

 すると、元木はヒットで出塁、ここで高橋由伸に回り、クリーンアップを迎える。僕が控室から通路を通ってベンチ裏へ戻ろうとしているとすぐさま天井に響くような大きな歓声が! 何っ? なんと江藤の同点満塁弾が飛び出した。「うぁーっ!」。僕もそう叫ぶしかない! うねるような大歓声が止む間もなく、今度は天井を突き破るような地響きにも似た轟音のような歓声が! 二岡がサヨナラで試合を決めた。

 グラウンドに上がると、そこはもう何が何だか分からない、選手たちが入り乱れたグチャグチャの様相。何とか冷静にならなくてはと思っていた僕に・・・

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