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裏方が見たジャイアンツ

香坂英典コラム 第50回 満塁男・駒田徳広(後編)

 

92年、駒田徳広は2年連続打率3割超をマーク[.307]


コマの捨て身戦法


 僕が現場の広報に就いた1年目の1992年、コマは着々とチームの中心打者として成長し、さらなる飛躍が期待されていた。

 この年のキャンプインはグアムキャンプだった。まだ右も左も分からない現場広報として、南の島に降り立った僕は、仕事の要領も分からず、大挙して押しかけるマスコミ関係者を一人で相手にしなければならなかった。

 そこにいきなり来た案件が、当時のテレビ東京の「スポーツTODAY」という番組で毎日、コマのインタビューをお願いしたい、それもシーズンを通してお願いしたいというものだった。

 試合、練習などの運営に支障がないようにマスコミとの交通整理をすることが現場広報の仕事だが、インタビューを毎日やるのは、コマには支障がないものなのか、本人に聞いてみることにした。返答は「いいですよ」と快諾。コマにとっても毎日インタビューなどは初めてのことだったようだが、こうして注目されているということがコマのモチベーションを大きく上げることになるだろうと僕は踏んでいた。

 コマはムードメーカーでもある。どんどんしゃべれ! それでこそコマだ。グアムキャンプの初日の練習が終わるとコマはテレビ東京のカメラの前に立ち、熱海の帰り道に僕の車の助手席でしゃべりまくったときのように饒舌(じょうぜつ)になった。

 僕は試合中に選手のコメントを取る仕事をしていたが、ある試合で5安打目(5打数5安打)のヒットを打ったときの言葉は可笑(おか)しかった。「もうお腹いっぱいです。デザートもいりません」。駒田節だ。このシーズン、コマは自身最多のシーズン本塁打27本を打ち、打率3割もクリアし、ますます選手としての円熟味を見せてくる。

 そんなコマに僕が試合中に聞いた話……その1。大洋ホエールズの絶対的な守護神、遠藤(遠藤一彦)さんはいつもジャイアンツの前にストッパーとして立ちはだかった。そして遠藤さんの代名詞とも言われる「フォークボール」には巨人のどの打者も、幾度となく辛酸を嘗(な)めさせられた。ストレートとその軌道から鋭く落ちる遠藤さんのフォークのストライク、ボールの見極めはとても難しく、ワンバウンドになるフォークをストライクだと思って振り、空振り三振に取られる打者ばかりが目立ち、またフォークを意識し過ぎてズバッとストレートを投げられて、見逃しの三振に取られるなど、いいようにやられることが多かった。

 しかし、ある試合で打席に立った駒田は・・・

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