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香坂英典コラム 第79回 プロスカウトという仕事【9】

 

2008年、巨人ヤクルトからグライシンガー[右]、ラミレス[中]、横浜からクルーン[左]を獲得した


「そこまでやるか」という意見


 僕たちプロスカウトの仕事は調査をすることで、決断、決定は編成本部が行う。とは言ってもトレード調査も国内外国人獲得調査も、そのすべてに僕自身がかかわっているとは限らない。誰と誰のトレードを決めたとか、新外国人を(国内移籍で)獲得するとかいう話がいきなり耳に入ってくることだってある。また、それをずっと知らされないままマスコミ報道によって知ることだってある。これは機密漏れを防ぐためでもあり、他球団のプロスカウトの皆さんも同様なことはあると常に言っていたのを思い出す。

 それにしても、僕が驚いたのは2008年の外国人選手移籍補強で“最強三羽烏”と言っていいアレックス・ラミレス、マーク・クルーン、セス・グライシンガーの入団だった。言わずと知れたこの3人、ラミレスはヤクルトの不動の四番打者、同じくグライシンガーもヤクルトの先発として来日初年度にいきなり16勝を挙げて最多勝を獲得したローテの中心的存在、クルーンは横浜(現DeNA)で3年連続25セーブ以上をマークしている守護神という強力な助っ人たちだった。

 もちろん、僕も初耳の話だった。彼らが新たにその力を求められる球団と契約することはルール上、当然可能であり、その獲得競争の末、巨人が彼らを迎えることを成就させた。ただ、他球団のどのチームを見ても、強力な四番打者の不在や先発投手不足、そしてストッパー不在の課題を抱えているチームばかりで、確かにそれは「引き抜き感」が強く、それゆえにこの補強は多くの「そこまでやるか」という意見もあり、物議も醸した。

 1970年代から80年代にかけてヤクルトアトムズ、ヤクルトスワローズで先発ローテの一角として、4年連続2ケタ勝利を挙げるなど技巧派左腕として活躍した安田猛さんはその当時、ヤクルトのプロスカウトで、僕も一緒に仕事をさせてもらった時期があった。ラミレス、クルーン、グライシンガーの3人の外国人選手を巨人が獲得したこの年、安田さんから言われたことがある。

「おい香坂、巨人は3人獲ったけど、それで勝ってうれしいの?」

 打者に打ち気がないと見ると、ビシッとど真ん中にストレートを投げ込む意表を突いた安田さんらしいピッチングのように、僕に突然そう話しかけた。安田さんとはそれまであまり多く言葉をかわしたことがなかったこともあり、僕はそのいきなりの“直球”に戸惑ってしまう。そして安田さんは「俺だったら、うれしくないけどなぁー」と少し笑いながら言った。僕は返答に困ってしまった。だが・・・

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