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裏方が見たジャイアンツ

香坂英典コラム 第84回 他球団の育成環境調査指令【1】

 

山頂部分を切り開き、1993年に開場した由宇練習場


調査対象にしたのは広島


 僕のプロスカウト時代の出来事や経験をつづってきたが、長々とあれもこれもと思い出し、プロスカウト編だけで10回を超えてしまった。ただ僕がプロスカウトになった当時の2008年の巨人軍編成本部は同時にチーム強化の一環として、「育成部門強化の方針」を打ち出していた。当時の球団代表の清武英利さんは育成体制構築のために、僕らプロスカウトに情報収集を命じた。

 今日、育成環境の整備を確立してきた最たるチームは福岡ソフトバンクホークスと言えるが、その成果として、千賀滉大投手のように自らのプレーの舞台をメジャー・リーグに転じようかとするくらいのレベルの選手さえ現れている。だが、その当時、若手の育成環境の調査対象として名前が挙がったのは広島東洋カープだった。広島の練習環境は伝統的に厳しいと語り継がれているものだったが、そういった中から多くのスタープレーヤーが生まれ、まさに「厳しい練習」に耐えてはい上がってきた無名の選手たちも数多くいる。

 僕はトレードの調査に加えて、育成部門強化の情報収集のために、山口県由宇町にある「広島カープ二軍練習場」に通うための視察スケジュールを組む。球界関係者たちが「由宇」(ゆう)と呼ぶ広島二軍本拠地は、広島駅からはJR山陽本線に乗って徳山方面に向かい、1時間20分ほどレールの上を走ると由宇駅に到着、そこからタクシーは山の勾配を感じながら段々と標高を上げていき、20分ほど走ると、そのほぼ山頂部分に位置するカープ二軍本拠地にたどり着く。

 実は以前、広島駅から由宇駅までの電車移動は50分ほどの所要時間だった。なので、僕は由宇でのウエスタン・リーグ3連戦時の宿は広島駅付近に構え、由宇までその都度通うという動きを取っていたが、このJR山陽本線は11年の東日本大震災後には由宇まで行ける直通電車がなくなり、岩国駅止まりのダイヤになった。由宇までの所要時間は岩国経由で1時間20分ほどと長くなり、宿は岩国に移すことになった。

 そもそもなぜ、遠い広島に宿を構えたかと言うと、昼間に行われる由宇での二軍戦が雨で流れても、その後雨がやんで広島市内にあるマツダ広島でナイトゲームが行われた場合などは、その試合の視察に速やかに変更しなければならなかったからだ。また1日中、雨模様で由宇もマツダ広島も試合が行われないとなると、今度は広島駅からJR山陽本線で約30分にある宮島口駅で下車し、「大野寮」と呼ばれる選手寮と隣接した広島カープ屋内練習場まで行き、練習視察をしなければいけないからだ。

 これは広島に行ったときだけのことではなく、二軍のデーゲームが雨で流れ、その後雨が上がった場合のナイトゲームが人工芝球場であったり、屋根のあるドーム球場であったりすれば、そちらに足を運ぶ。現在で言えば北海道は札幌ドーム、首都圏であれば東京ドームやベルーナドーム、中部はバンテリンドーム、関西地区は京セラドーム、福岡に行けばPayPayドームなどがあり、当然試合は行われる。だから、試合が組まれていない限り、「今日は雨で休み」なんてことはプロスカウトにはほとんどないものだった。

 もちろんこれは僕らだけに限って行っていたことではない。他球団のプロスカウトも同様で・・・

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