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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「引退セレモニーと梨の甘酸っぱさ」

 

引退を決意した斎藤。10月17日には札幌ドームで引退試合に臨む


 どちらも梨の名産地だ。

 稲城の梨と鎌ケ谷の梨――いずれも江戸時代からの古い歴史があると言われ、秋になると道端に直売所が並ぶ。でっかい梨がビニール袋に4個、5個と詰められ、テーブルの上に無造作に置かれているのを目にすると、つい車を路肩に寄せて買ってしまうものだ。

 15年前もそうだった。

 2006年9月24日。ジャイアンツ球場へ車を走らせる途中、稲城の梨を買った。この日は桑田真澄がジャイアンツのユニフォームを着て投げる最後の登板だった。ただし舞台は東京ドームではなくジャイアンツ球場……つまりは二軍の試合である。2006年、プロ21年目の桑田は4月に一軍で1勝を挙げたものの、5月に出場選手登録を抹消された。右足首を痛めたことが原因だったのだが、そのケガが癒えて二軍の試合で結果を残しても、一軍からの声は掛からなかった。

 そして桑田はこのイースタン・リーグ、湘南シーレックス(ベイスターズ二軍)との試合がジャイアンツでの最後の登板になると覚悟した。ピッチャーとして、事実上の戦力外通告を受けたからだった。桑田は登板前日、球団のホームページ内にあった自身のブログにその覚悟を綴(つづ)った。突然、これがジャイアンツの桑田として最後の登板になるであろうことを知らされ、ジャイアンツ球場にはたくさんの観客が詰めかけた。公式の発表で3495人、さらにチケットを買えなかった500人とも1000人とも言われる人々がグラウンドを見下ろすことができる球場外の丘の斜面に陣取る。

 そんな中、桑田は・・・

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石田雄太の閃球眼

石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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