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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「人柄がにじみ出るヒーローインタビュー」

 

このお立ち台に上がる前、ベンチで目を潤ませていた宗


 野球の取材を始めて今年で35年。これまで野球選手に対して数え切れないほどのインタビューをしてきたが、一度も経験したことのないインタビューがある。それが、試合後の“ヒーローインタビュー”だ。チームを勝利に導いたその日の試合の立役者が、お立ち台に上がる。極めて短い時間のインタビュアーを務めるのはアナウンサーやリポーターなど、しゃべることを生業としているプロだ。

 実は、ヒーローインタビューではなかったのだが、一度だけ、試合直後のインタビュアーを務めたことがある。2004年、イチローがジョージ・シスラーの257本というシーズン最多安打記録を塗り替えたその日、試合終了直後のテレビ中継のインタビュアーを務めたのだ。MLBやNPBを取材する記者という仕事は、試合が終わった直後のグラウンドへ出ることが許されていない。これは日米ともに同じで、カメラマンや中継スタッフは試合後のグラウンドへ出られるのだが、記者はインタビュールームや、メジャーならクラブハウス、日本ならベンチ裏の通路などで取材をすることに決められていて、グラウンドへは出られない。だからイチローのインタビューをしたときは、試合が終わったばかりの興奮冷めやらぬグラウンドがあまりに新鮮で、その雰囲気に圧倒されたものだった。

 ただ、このときのインタビューはスタンドの観客には届いていない。だから、いわゆる“ヒーローインタビュー”とは違う。それでも、あのときのたった一度の経験から、試合後のグラウンドという特殊な雰囲気の中でインタビューをすることの難しさは想像がつく。限られたやりとりの中で、どんな言葉を引き出すべきなのか。勢いのある言葉を発すればいいと思っている選手がいたり、通り一遍の短い言葉でしか返そうとしない選手もいる。何か言葉を発するたびに観客が拍手をしてくれることも独特の間となって、聞き手としてはさらに難しくなるだろう。

 ところが先日、心を揺り動かされるヒーローインタビューに出合った。9月19日の大阪でバファローズがホークスを3タテした試合直後の宗佑磨である。センター前へのサヨナラヒットで試合を決めて、お立ち台でマイクを向けられた宗は・・・

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石田雄太の閃球眼

石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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