前回に続いて、今回も時計の針を17年前に戻してみよう。拙著『屈辱と歓喜と真実と』より、第1回WBCの最中に行われた決起集会の場面を再現してみる。
2006年3月13日。
王貞治監督のもと、初めて行われたWBCに出場していた日本代表は、第1ラウンドを韓国に次ぐ2位で勝ち上がり、アメリカのアナハイムで第2ラウンドを戦っていた。その前夜、あまりに不可解な“世紀の大誤審”で勝ち越し機を逸し、アメリカにサヨナラ負けを喫した日本。皮肉にも愛国心に火がつき、盛り上がりを欠いていた日本でのWBCへの関心が急激に高まっているらしい──そんな噂は選手たちの耳にも届いていた。
試合のなかったこの夜、イチローは野手全員を食事に誘っていた。選手たちはウエストロサンゼルスの焼肉店へと向かう。イチローはこの日のことをずいぶん前から考えていた。スケジュールを見ると、全員で食事に行けそうな日はこの日しかなかったのだ。家族が来ていた
谷繁元信、アメリカ戦でのデッドボールが後を引いて治療をしていた
松中信彦をのぞく野手がイチローの呼びかけに応えて、この日の集まりに参加した。
イチローにとっては馴染(なじ)みの店。それほど広くない店内は、選手たちで貸し切り状態だった。縦長に並べられたテーブルの端にイチローが座る。すかさず
宮本慎也が
川崎宗則に声をかけた・・・
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