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【MLB】ロボット・アンパイアの実験で支持されるチャレンジシステムとは

 

現状のテストでは、すべての判定をロボット・アンパイアに任せるのではなく、リクエストのような形での導入が支持されている


 現在、3AでテストされているABS(automatedball-strike system)。いわゆるロボット・アンパイアの将来像が具体的に見えてきた。MLBは2つのやり方を試している。

 一つはテクノロジーに完全にお任せ。12個の高速度カメラを基にコンピューターが瞬時に判定、0.5秒で人間の球審の耳に届き、球審がジェスチャーと声で伝える。誤差は10分の1インチ(2.54ミリ)未満と正確だ。誰も判定に文句は言わない。

 もう一つは人間が主体で、テクノロジーが補助するもの。人間の判定に対し、チームとして1試合3度までチャレンジできる。チャレンジとなると、コンピューターが、ボールがリリースされてからプレートを通過するまでの軌道をビデオボードにグラフィック画像で映し出す。

 最初は捕手目線で、ボールがプレートに近づくと180度回転し、投手目線になり、それでストライクかボールかが分かる。画像は選手や監督だけでなくスタンドのファンも見ることができるから、球場が沸く。

 判定が覆れば、チャレンジの権利を取り戻せる。この時間は長くても10秒で速やかに進む。事前に危惧されていたのは、1試合に10回くらいチャレンジになり、その都度ゲームが止まることだったが、そんなことにはならないようだ。

 審判の判定は90%以上の確率でおおむね正しいし、チームは試合終盤の大事な場面までチャレンジの権利は取っておきたい。だから序盤は絶対に間違っていると確信できるときでないと動かない。

 ESPNのジェフ・パッサン記者によると、1イニング目にチャレンジになったのは全投球の1.8%、回を追うごとに確率は上昇し、9イニング目は4.9%になっている。カウント別では、一番チャレンジが起きやすいのは3-2で9.6%、2-2は6.3%になっている。ちなみに、チャレンジの成功は昨季は48.5%、今季はここまで44%だそうだ。

 現場で支持されているのはチャレンジシステムのほうだ。テクノロジーに完全にお任せにしてしまうと、プロ野球の150年の歴史の中で培われ、継承されてきた人間の審判の技術も経験も一切失われ、後進も育てられない。さらには審判の目を欺く捕手の名人芸ともいえるフレーミングの技術も、完全に意味がなくなってしまう。

 100%完ぺきな判定はいいのだが、どこか味気ない。人間的な部分も野球というスポーツの貴重な財産ではないかという考えだ。そしてロボットは人間より正確だが所詮は機械に過ぎない。ゲームのすごく重要な局面で、動かなくなるという最悪の事態も起こりうる。人間主体で、テクノロジーが補助する形のほうが無難ではないかということだ。

 最終的にどちらが選ばれるかは分からないが、テストは順調に進んでおり、両方技術的に大きな問題はない。近いうちに導入可能だ。ただMLBは野球の歴史の中で、やはり大きな変革となったピッチクロックを23年に導入したばかり。ゆえにMLB関係者は、24年はないと予測している。

 3Aで引き続きテストを続け、現場の監督、コーチ、選手の意見を聞き、プロ野球の娯楽性を高める目的で模索を続けていく。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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