週刊ベースボールONLINE

MLB最新事情

【MLB】人気球団のプレッシャーを克服 カブスをけん引する鈴木誠也

 

ファーストスイングから振っていく、そしてシンプルな考えを持つことで打撃が好調になり、チームの勝利に貢献している鈴木


 鈴木誠也はメジャー有数の人気球団カブスと5年総額8500万ドルの巨額の契約を結んだ。ゆえに2年目になっても期待どおりの結果が出ないと、地元メディアは黙っていない。本人にすれば大変なプレッシャーがあっただろう。

 しかし8、9月の活躍でカベを乗り越えた。「鈴木はメジャーの平均的な打者なのか、それとも次の偉大なカブス球団を背負って立つ打者なのか」……大きな疑問符が付けられたのは7月20日、スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」の記事だった。1年目と比較し、ハードヒット率も打球速度も上がっているのに、その時点の成績は打率.263、長打率.407、8本塁打で中核打者としては物足りない。

 結果が出ないと、練習の仕方に目が行く。鈴木は試合が終わったあともケージでバットを振る。デビッド・ロス監督は「選手に練習をやめろとは言わない。でも何をやるのか? 練習は効率的にやることが大事だ」と話した。コーチも「われわれはバットスピード、スイングの軌道、コンタクトポイントなどすべてのデータを見ている。スイングは良い。これ以上やる必要はない」と言う。

 一方の鈴木は「自分の思うようなプレーができていない」ともがいていた。7月下旬8試合で3安打と結果が出なかった。トレードデッドラインで「売り手か買い手か?」で迷ったカブスは、負け越していたのにもかかわらず買い手に回り、ジェイマー・カンデラリオ内野手を補強した。

 8月になると、ロス監督は勝つことだけに集中していく。鈴木は打順を下げられ、相手先発投手が右の場合はスタメン落ちとなった。同4日のブレーブス戦は3打数0安打2三振で、中途半端なスイング。カブスの地元実況は「プレータイムも自信も失って、鈴木は難しいときに直面している。願わくば早く良い状態に戻ってほしい。でも今日のようなスイングを見せられるとプラスにはならない」と苦言を呈した。

 問題はやはり考え過ぎにあった。普通ならその日の相手投手についてもシンカー投手なら反対方向を狙おうとか、フォーシーム投手なら上から叩こうとかイメージするだけ。でも鈴木は厳密に考える。しかしながら実際の試合は想定したとおりにはいかない。そのためコーチは「考え過ぎるな、君はスイングは良いんだから」とアドバイスした。

 鈴木本人も7月上旬から「今までスイングのこととか考え過ぎだった。それよりも投手に向かって行く気持ちを大事にしたい」と話していた。だが、なかなか実行にはつながらなかった。転機は8月9日のメッツ戦だった。第1打席は初球打ちの三塁打、第2打席も初球打ちの単打、第4打席はボール2から3球目のファーストストライクを本塁打とした。

 鈴木はもともとボールをよく見ていくタイプで選球眼の良さが持ち味だが、初球のスイング率はメジャー平均の28%に比べて、4月は12%、5月は9%、6月は12%、7月は14%と極端に低かった。それをファーストストライクから積極的に行くことで、8月と9月は打率.355、長打率.720、8本塁打の数字。チームをけん引し、カブスも76勝64敗の好成績を挙げている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
MLB最新事情

MLB最新事情

メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング