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【MLB】偉大な選手でも、オーナーが現場介入するチームにいては勝てない

 

オーナーが現場介入するとなかなか勝てないという現象がある。大谷の所属するエンゼルス、モレノオーナーも介入しているという。やはりオーナーは金は出すが口は出さない、が一番機能するのだが……


 カブスの名遊撃手アーニー・バンクス(1953年から71年)は19シーズン、メジャーでプレーし、2度のMVPに輝き、2度の本塁打王、オールスターには11回も選ばれた。明るい性格で「ミスター・サンシャイン」と呼ばれ、背番号「14」は永久欠番となっている。

 58年に47本塁打、129打点でMVP選出。チームは72勝82敗の負け越しで、負け越しチームからのMVPは史上初だった。翌年もチームは負け越したが、バンクスは45本塁打、143打点で2年連続でMVPに選ばれた。FA制度のない時代、バンクスはカブスでキャリアを全うし、公式戦2528試合にプレーしたが、一度もポストシーズンゲームに出られなかった。

 この2528試合というのはメジャーにおける不名誉な記録である。とはいえ、これはバンクスの責任ではない。不運にも低迷期のカブスに在籍していたからだ。当時のオーナー、フィリップ・リグレーはしばしば現場に余計な口出しをした。60年は勝てないことに業を煮やし、現場の監督と専属解説者の役割を交換させた。61年から65年は監督を固定せず、8人のコーチが交代して指揮を執った。64年にはのちに殿堂入りする盗塁王ルー・ブロックを宿敵カージナルスにトレードした。

 その上で当時はポストシーズンといってもワールド・シリーズしかなかった。リーグ優勝決定シリーズが始まり、ポストシーズンに出る球団数が「4」に増えたのは69年、バンクスが38歳のシーズンだ。カブスはナ・リーグ東地区で開幕から独走、8月19日時点で2位のメッツに8ゲーム差をつけた。

 バンクスも打率.253、23本塁打、106打点と踏ん張った。しかし終盤逆転されてしまう。ちなみにのちにヤンキースの監督として4度の世界一を導いたジョー・トーレも、選手としては2209試合にプレーし(60年から77年)、MVP1度、首位打者1度だったが、プレーオフには出られなかった。

 その後ポストシーズン枠は95年に8チーム、2012年に10チーム、22年に12チームと拡大、より多くの選手が出られるようになった。加えてFA制度があるため、一つのチームに縛られることもない。ちなみに21世紀になってからプレーした選手では、主にレッズに在籍したアダム・ダン一塁手が2001試合(14シーズン)プレーして、一度もポストシーズンに出られなかったのが記録である。

 エンゼルスの大谷翔平はここまでメジャーで716試合にプレーしてきて、一度もポストシーズンに出られていない。ご存じのとおり、アート・モレノオーナーがしばしば現場に介入し、それがチームの不利益につながったからだ。とはいえバンクスと違って、このオフにFA権を得て他球団に移籍できる。オーナーはお金だけ出して、現場に任せる度量の大きい人物が良い。ドジャースは12年にマーク・ウォルターが就任。常にメジャーでトップ5のサラリーを払っているが、野球のことはアンドリュー・フリードマン編成本部長に一任。今季も11年間で10度目のナ・リーグ地区優勝に近づいている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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