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【MLB】プレー経験豊富で聡明な編成本部長は新たなトレンドを生むか?

 

ア・リーグ東地区最下位となったレッドソックスは、編成本部長に左腕リリーバーとして活躍したブレスロウを抜てき。高学歴でありメジャー12年の経験値を生かして、チーム強化を図っていく


 20世紀初頭、能力のある選手を発掘し、採用する仕事は球団のオーナーや監督が兼ねていた。今で言う編成本部長/GMというそれに特化した役職は1920年代、カージナルスのブランチ・リッキーやヤンキースのエド・バロウによって生まれ、当時はビジネスマネジャーと呼ばれた。その後、ジェネラルマネジャーという名称になり、バロウの後任で40年代、50年代のヤンキースの黄金時代を築いたジョージ・ワイス、レッズ、インディアンスなどで辣腕を振るったゲーブ・ポールらが有名である。

 とはいえオーナーや監督が役割を兼ねるチームは70年代や80年代まであった。70年代前半のアスレチックスの黄金時代を作ったのはチャーリー・フィンレイオーナーだったし、インディアンスのアルビン・ダーク、カージナルスのホワイティ・ハーゾグらは監督とGMの仕事を兼任していた。

 それがご存じのように近年では「マネーボール革命」により、アイビー・リーグ出身の高学歴で、選手経験のない、アナリティック(データ分析)に通じる若い秀才たちが要職を占めるようになった。大きな権限を持ち、監督を雇うのも彼らの仕事で、年上の元選手を部下にしている。そのトレンドがひょっとしたら今後少し変わっていくのかもしれない。

 レッドソックスの編成本部長に43歳、クレイグ・ブレスロウが就任することになった。現役時代は左腕のリリーフ投手で、メジャー12シーズン、576試合に登板、防御率3.45の成績。2013年はレッドソックスで上原浩治田澤純一とともに世界一に貢献した。この人事には、今季レンジャーズをワールド・シリーズに導いた44歳のクリス・ヤングGMの成功も関係しているように思う。

 208cmの長身投手だったヤングはメジャー13シーズン、通算成績は79勝67敗、オールスター選出は1度だった。彼はGMに採用されると、3年目にチームをワールド・シリーズに進出させた。2022年の68勝94敗からの奇跡的な躍進だった。そこにはいくつもの要因があるが、1年前、引退していた元ジャイアンツの名監督ブルース・ボウチーを口説き、復帰させたことが大きかったと思う。

 ほかのGMがボウチーを過去の人と決めつける中、大監督の存在感や豊富な経験がもたらす信頼感に目をつけた。アナリティックの人々は存在感や信頼感といった漠然とした数値化できないものに対しては、まともに取り合わないが、長年プロでプレーしてきたヤングはそこに賭け、6年連続負け越しと負け癖がついていたチームを見事に一転させた。

 ちなみにヤングもブレスロウもアイビー・リーグの大学出身で頭脳明晰、アナリティックについても勉強し、よく理解していた。だが元選手である彼らはそれだけでは不十分だと分かっている。そこで数値化できない部分はベテラン監督の経験値に委ねるのである。

 野球に限らず21世紀のスポーツは科学的に著しく進化したが、スポーツは人間の創造的な営みでもある。彼らが結果を出し続けられれば、元選手の編成本部長が増え、野球をさらに面白くしてくれるのではないだろうか。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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