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【MLB】打撃専門のDHのポジションでOPSの低いチームが少なくない理由

 

DH専門の打者が少なくなってきた理由は、休養のため、守備機会を与えるためなど、それぞれのチームの要因によりDHが使われている傾向が強くなってきたからだ


 2022年から両リーグ指名打者制のユニバーサルDHになったことで、選手会は大喜びした。DHを任せられるのは強打者で、高給をもらう仕事がナ・リーグで15人分増えれば、選手の平均年俸が上がると期待されたからだ。

 しかしながら必ずしも想定どおりにはなっていない。理由はかつてのデビッド・オルティス(元レッドソックスほか)や大谷翔平のように、圧倒的な打力を持つ指名打者はそうそういないからだ。23年、DHで130試合以上に先発したのは、エンゼルスの大谷とブレーブスのマルセル・オズナとナショナルズのジョーイ・メネセスの3人だけである。

 オズナは打率.274、40本塁打、100打点と活躍したが、メネセスは打率.275、13本塁打、89打点で、OPS(出塁率+長打率)は.722と低かった。各球団のDHのOPSを比較すると、大谷のエンゼルスが.995で断トツの1位。.850を超えているのはフィリーズ、ブレーブス、ドジャースの3球団のみだ。

 一方でOPSが.700にも届かないチームはブリュワーズ、ガーディアンズ、ダイヤモンドバックス、タイガース、レッズ、マリナーズと6球団もあった。なぜ打つことが専門のポジションなのに、打撃成績がパッとしないチームが多いのか? それは多くの球団がDHのポジションを打撃が得意な打者に一任するのではなく、複数の選手で使い回しているからだ。

 長いシーズンの間には、ケガで守れない選手も出てくれば、守備で休みを取らせたい選手も出てくる。ダイヤモンドバックスのマイク・ヘイゼンGMは「もっと数字が出たほうが良いのは確かだが、それ以外にも価値がある」とAP通信に説明している。使い回すことでレギュラーの野手をフレッシュな状態に保てる。そもそも球団は育成の段階から、打つだけの選手は作りたがらない。

 メジャーのベンチ入り野手は13〜14人と限られている。若手有望株で打つのが得意で守備は苦手という選手がいても、メジャー昇格までに守備で守る場所を見つけだす。加えて選手もDHで打つだけという使われ方を必ずしも好まない。アストロズのヨルダン・アルバレスは21年、DHで97試合に出たが、22年が77試合、23年は73試合と徐々に減らし、より左翼のポジションに就いている。

 そもそもまだ26歳の若さだ。だからこのオフ、約8球団が優秀なDHを探していると言われるが、大谷以外では、目玉商品はJD・マルティネスとホルヘ・ソレアくらい。ジャスティン・ターナーとブランドン・ベルトの名前も挙がっているが、おそらく単年契約だろう。もっとも想定どおりでなくても、選手会にとっては悪くない状況だ。

 ターナーとベルトは引退が近づいているが、それでも年俸は1000万ドルを超えるだろうし、カルロス・サンタナやマイケル・ブラントリーのような30代後半のベテランもDHのスポットがあるおかげで、どこかの球団に1年契約をしてもらえる。

 ただし、43歳で引退した通算464本塁打のネルソン・クルーズのような、風格があり一振りで試合を決められる存在感のある指名打者は、もっといていいのではと思うのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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