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【MLB】山本由伸獲得資金3億7562万5000ドル これほど膨れ上がった要因とは

 

膨大なデータを分析しながら、日本人投手の適正価格が決まっていくが、それ以上に今回の山本は、人気があったことで、さらに大きな金額に膨れ上がった


 ドジャースが山本由伸に与えた契約は12年総額3億2500万ドルで、オリックスに支払われるポスティングフィー5062万5000ドルを含めると獲得に要した金額は合計3億7562万5000ドルになった。この額はムーキー・ベッツの12年契約、マイク・トラウトとアーロン・ジャッジの10年契約をも上回る。なぜこれだけ膨れ上がったのか。要因はまずヤンキース、メッツなどビッグマーケットチームがほぼすべて獲得に必死だったこと。ストーブリーグが始まった時点で2億ドルを超えると噂されていたが、1カ月が経って1億ドルもプラスされた。

 加えて以前の労使協定下ではメジャー各球団は若手有望株のサービスタイムをコントロールし、メジャー・デビューを意図的に遅らせていたため、アメリカ選手でFA資格を得る年齢が30歳前後となり、山本の25歳の年齢に希少価値が生じた。さらに長期契約はリスクが高いと言われていたのだが、ビッグマーケットチームはぜいたく税対策でAAV(年平均年俸)を下げる必要があり、契約を長くするトレンドに変わった。

 これに加えて大きな要因は日本人選手についてもデータを膨大に収集できるようになり、メジャーの投手と科学的に比較できるようになったこと。パイレーツのベン・シェリントンGMは、かつてはレッドソックスのフロントにいて2006年オフの松坂大輔獲得に関わった経験があるため、当時と現在とでは全く違うと証言する。

 松坂のころは主にベテランスカウトの主観的な報告に頼っていたが、今はリリースポイント、回転率、回転軸、ボールの動き方など情報は客観的で緻密だ。スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」のイノ・サリス記者は限られたサンプル数ながら、WBCでの山本のデータをメジャーの投手と比較した。それによると、山本の直球はブルージェイズのケビン・ガウスマンと似ており、メジャーの先発投手のトップ20に入る。

 スプリットは直球より50.8cmも落下し、速度は8キロ遅いだけ。ガウスマンはメジャー有数のスプリットの使い手だが、山本のスプリットも最高レベルになると予測する。カーブも回転率が高く、77マイルのリリース速度で165センチも落ちる。これだけ速くよく落ちるカーブはほかになく、左投手だが、ブレーブスのマックス・フリードの決め球に近いそうだ。

 さらにコントロールが抜群で、メジャーで最高の制球力を誇るマリナーズのジョージ・カービーとレイズのザック・エフリンと比較できるレベルだという。メジャー球団にはNPBから得た膨大なデータがあり、より細かく山本の活躍レベルを予測できたのだろう。周知のとおり日本のボールはメジャー球とは違い、プレー環境も異なるため、一連の数値がMLBでも全く同じとはいかないが、少なくともメジャーでもエースとして活躍できると判断できたのである。

 とはいえ実力だけで弾き出せば2億ドルくらいが適正価格だったのだろうと思う。それが異常な争奪戦で価格はバブルのように膨れ上がった。3億7562万5000ドルの期待に応えるのは大変だろうなと正直心配になるのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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