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【MLB】FA補強「10億ドルvsゼロ」と、両極端のメジャー

 

父親のピーターがオリオールズを買収したが、現在94歳。息子2人に経営を任せたが、今季はFA獲得ゼロに。それでもエライアスGMが育成に力を入れ、強豪へと押し上げた


 このオフ10億ドルを費やし、オーナーとフロントが一つになってチームを強くするドジャースのような熱心な球団もあれば、正反対にほとんど動かないチームもある。今のメジャーは両極端だ。

 マーリンズはこのオフ、FA選手と一人も契約していないが、8球団が総額で1000万ドルも使っていない。オリオールズも昨季は若手を軸にア・リーグトップの101勝を挙げ、2024年は世界一もと期待が高まっていたのに、オフのFA市場に名前はほとんど出てこず、クレイグ・キンブレル投手を1年1300万ドルで獲得しただけ。そこに17億2500万ドルでの球団売却合意のニュースが出た。

 新オーナーは地元出身のデービッド・ルーベンスタイン氏、チーム強化に意欲旺盛だという。遅ればせながら本当に良かったと思う。なぜ熱意のないオーナーが存在するのか。オリオールズの56歳、ジョン・アンジェロス氏の場合は、父親ピーターが1993年に1億7300万ドルで球団買収。当初はサラリー総額をMLBでトップレベルに押し上げ96、97年にポストシーズンに進出するなど熱心だったが、同時に選手の獲得にも口を出し判断ミスを重ねてしまい、14年連続での負け越し。意欲を失っていった。

 現在ピーターは94歳の高齢。もはや仕事はできない。18年から2人の息子が引き継いだが、弟が財産を巡って兄ジョンに訴訟を起こしたり、所有している地元ケーブルTV局MASNも支払う放映権料でワシントン・ナショナルズと争い、12年、16年度分は追加で1億ドルを払うことで決着したが、17年〜21年、22年〜26年度分は依然交渉中でこれも裁判沙汰。本拠地球場カムデンヤードのリース交渉も長引いていた。

 地元の野球ファンは何よりもオーナーには勝つことを最優先にして、積極的に補強してほしい。だが、ジョンはけちん坊で23年開幕時のサラリー総額は30球団中29番目の7106万ドルだった。昨夏のNYタイムズのインタビューでは、若手の年俸が上がってきたらチケットを値上げしないと引き留められないと発言していた。

 もっとも、正しいこともしていた。18年11月にマイク・エライアスGMを採用して以来、野球の現場の仕事には一切口出ししなかった。エライアスGMは過去7年間で世界一2度のアストロズの元スタッフで、GMに就任するとアストロズと同じドラフト重視で若い有能な選手をかき集めた。おかげで23年はアドリー・ラッチマン捕手、ガナー・ヘンダーソン内野手らが活躍し大躍進。

 ほかにもジャクソン・ホリディ内野手などファームにはたくさん若手有望株がいる。とはいえアンジェロスオーナーはエライアスGMに一度もFA選手と複数年契約を結ばせなかったし、年俸1000万ドルを超える契約も、1年前のカイル・ギブソン投手との1度だけ。それでは世界一を望むことはできない。地元ボルティモアのファンはオーナー交代を大歓迎している。売却合意のニュースの直後、ブリュワーズのエース、コービン・バーンズのトレード獲得の吉報も届いた。

 エライアスGMは「必要な投資もする。われわれにはチャンスがある」と意気込んでいた。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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