
年々打席での立ち位置をリーグ平均より前にしているカブスの鈴木。打撃に関する新しいデータの誕生によって、これまで感覚的だったものが、より数字で分かりやすくなってきている。こうしたデータに基づく新しい分析をしていくことで新たな一面を知ることができる世の中になり、技術力アップにつながる
今季MLBで打撃に関する新たなデータが次々に発表されている。開幕前の「打者がバッターボックスのどこに立っていたか」というスタンスに加え、インターセプト(ボールとバットの接点)のデータも出た。前で打つ打者か、引きつけて打つ打者かの違いである。
そして5月下旬、3つの新たなデータが加わった。スイングパス(インパクト直前のバットの傾き/縦振りか横振りか)、アタックディレクション(インパクト時のバットの水平方向の角度。打球方向に関連)、そしてアタックアングル(バットに当たった瞬間のボールの垂直角度。打球の角度=打球の打ち上げ角に関係)である。これらのデータにより、初めてバットのスイングを可視化し、打撃の多面的な要素を理解できるようになっている。
例えば
大谷翔平。大谷はリーグ平均より、7.6センチから9.6センチも引き付けて打つ打者だったが、2025年は4.3センチと、大谷にしては少し前で打っている。スイングパスは例年どおり縦振りで、アタックディレクションは平均で4度の引っ張りと、昨年までの2度よりも引っ張りの度合いが増している。アタックアングルは15度で、2年前の13度、昨年の11度より高くなっている。リーグ平均は10度だ。
一方、
鈴木誠也は、23年はリーグ平均の位置で打つ打者だったが、24年は4.3センチ手前で、25年は8.9センチ手前で打つように変わってきた。スイングパスはほぼメジャー平均で縦振りでも横振りでもない。アタックディレクションは平均で2度の引っ張りと、昨年までの1度よりも若干引っ張りの度合いが増している。
アタックアングルは9度で、リーグ平均以下だが、2年前の5度、昨年の6度よりも高くなっている。新たな指標には理想的なアタックアングル率というものもある。これはデータ上、打率も長打率も上がる理想的なアタックアングルを5.20度とし、その角度でバットをどれだけ入れられているかだ。
今季の大谷はリーグ平均の50.9%を上回る54.1%、鈴木はリーグ平均と同じ50.9%である。鈴木については23年が42.2%、24年は47.3%と平均を下回っていたが、今年は良い角度でバットを振れている。
結果、長打率は.569と去年までよりも約80ポイントも上昇している。鈴木のバット速度は72.8マイルとMLBの平均よりも1.2マイル速いだけで、大谷の76.2マイルには及ばない。それでもバット速度に加速がつく前のポイントでボールをとらえ、打球を上げることで、長打が増え、長打率はMLB全体5位、51打点は全体1位である。
これまで打者のスイングについて私たちは目で見たものから、漠然と論じるしかなかった。しかし、現在ではこういった細かいデータから、緻密に分析できる。何より打者たちが数年前から、こういったデータを基にスイングを検証し、生産性を上げるべく、調整を行ってきた。
私たちもこういったデータを読めないと、現状で打者が何を考え、いかに投手攻略に挑んでいるのかを理解できない。詳細なデータに基づく分析は新たなフロンティア。正直、最高にワクワクさせられる。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images