
現地時間9月2日時点でナ・リーグの本塁打数トップに立つフィリーズのシュワーバー。2022年に本塁打を獲得した主砲は、今季前半戦までに96試合で30本塁打を放ち、後半戦は8月28日の1試合4発を含む19本塁打と調子を維持している
データサイト「ファングラフス」のWPA(Win Probability Added、勝利貢献度)は「そのプレーや選手の行動が、チームの勝率をどれだけ上下させたか」を数値化する指標だ。野球ではイニング、アウトカウント、走者状況、得点差によって勝率が算出できる。例えば9回裏1点差で無死満塁なら勝率は約60%、9回裏二死走者なしで2点差なら数%しかない。
各打席や投球ごとに「プレー前後で勝率がどう変わったか」を計算し、その増減を積み上げる。サヨナラ本塁打なら勝率20%から100%に上昇して+0.80、好機での三振なら40%から25%に下がり-0.15となる。
シーズンを通じて積み重ねれば、選手がどれだけ勝利に直結する働きをしたかが見えてくる。ほかのOPSやWRC+は長期的に見た「平均的な攻撃力」評価で、状況の重みは加味されない。WPAは試合の状況(接戦・終盤など)に強く依存する。いわば「ドラマ性を数値化」したものなのである。
このWPAで今季突出しているのがドジャースの
大谷翔平で、現地時間9月2日時点で5.19と断トツの1位。2位はメッツのフアン・ソトの4.78、3位はドジャースのフレディ・フリーマンの4.42、4位はヤンキースのアーロン・ジャッジの4.38で、5位以下は3点台にとどまる。もっとも、MVP選出でWPAが重視されたことはほぼなく、近年は圧倒的にWARが基準であり、プラス依然野球の「華」であるホームラン数はインパクトを持つ。
そこで大谷のライバルとして浮上しているのがフィリーズのカイル・シュワーバーだ。2014年にカブスからドラフト1巡目(全体4位)で指名され、今年メジャー11年目の32歳。8月28日には史上21人目の「1試合4本塁打」を達成し、今季49本と大谷に3本差をつけている。
シュワーバーは22年に本塁打王を獲得したメジャー屈指のスラッガーで、今年はそのパワーでさらに注目を浴びている。オールスターでは同点決着時の新ルール「ホームランダービー」で3連発し、ナ・リーグを勝利に導いてMVPを獲得した。
9月以降は大谷との本塁打王争いに加え、ライアン・ハワードが06年に樹立したフィリーズ球団記録58本塁打の更新に挑む。119打点はリーグ2位のメッツのピート・アロンソを6打点上回っている。オールスターのバットは野球殿堂に送られ、1試合4本塁打のヘルメットもクーパーズタウンに送られるなど、脚光を浴び続ける。
さらに打球速度95マイル以上の割合を示す「ハードヒット率」では、常連1位のジャッジに代わり今年はシュワーバーが60.2%で、レッドソックスのロマン・アンソニーに次ぐ2位。大谷の58.6%を上回る。ジャッジは55.5%だ。
直球への強さも際立っており、同僚トレイ・ターナーは「彼のスイングは本塁打にうってつけ。シンプルで速く、ゴロをほとんど打たない完璧なホームランスイングだ」と称賛する。
もっとも、WPAで見るとシュワーバーは2.62にとどまり、実は大事な場面での一打は少ないことが分かる。それでもハワードの記録を抜き、60本台に乗せて本塁打王となれば、ナ・リーグMVP投票で票が割れる可能性はある。
大谷が圧倒的指標を誇る中、シュワーバーが爆発力でどこまで食い込めるか、ペナントレースの行方と同様、9月の焦点となる。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images