
片膝をついた構え方、ワンニー・スタンスで捕るドジャースのラッシング。従来のしゃがむ構えよりもブロッキングの能力が高くなることが、データで裏付けられている。また、副次的な効果として捕手の身体への負担軽減も確認されている
今年は大量のデータがMLB公式データサイト「ベースボール・サーバント」に追加された。投手の腕の角度、打者の打席でのスタンス、スイングに関するデータに加え、7月からは捕手の「構え方」情報も登場した。フィールド上の選手の動きをほぼ完全に数値化しようというスタットキャストの試みは、着実に進んでいる。
捕手の構え方は「しゃがんだ」「左膝をついた」「右膝をついた」「両膝をついた」「中腰になった」の5種類に分類される。注目すべきは、従来主流だったしゃがんだ構えが、2020年には全体の76%を占めていたのに対し、25年にはわずか5%にまで減少したこと。反対に、片膝をついた構えは23%から90%へと急増。これは英語で「ワンニー・スタンス」と呼ばれる。
その理由は明確である。片膝をついたほうが、フレーミングによって際どいコースの投球をストライクに見せやすいからだ。リーグ屈指の守備力を誇る捕手、ジャイアンツのパトリック・
ベイリー、
ヤンキースの
オースティン・ウェルズらは、左右両方の膝を使い分け、内角・外角に自在に構え、低い体勢も織り交ぜながら、巧みにストライクを奪う。
レイズのケビン・キャッシュ監督は元捕手だが「1-1のカウントでボールっぽい球をストライクに見せる。それを3度やってくれるほうが、たとえ走者が一塁から二塁に進んでも、はるかに価値がある」と地元紙に語っている。膝をついて低く構えると盗塁を刺すのは難しくなる。それでもストライクを奪うほうが価値があるというのだ。さらに、従来は「膝をついているとブロッキング(ワンバウンド投球などを止める能力)が難しくなる」と言われてきたが、データはそれを否定している。
25年の試合あたりのパスボールやワイルドピッチの数は、1981年以来の低水準なのだ。ブルージェイズのアレハンドロ・カーク、レッドソックスのカルロス・ナルバエスはブロッキングの名手だが、90%以上の確率でワンニー・スタンスを採用している。加えて、副次的な効果として捕手の身体への負担軽減も確認されている。
ワンニー流行の火付け役とされるのが、ヤンキースの捕手コーチ、タナー・
スワンソンである。彼がツインズ時代の18年から提唱、7年でリーグ全体に広まり、定着した。いまやワンニーは、従来のしゃがむ構えよりも守備貢献度が高くなることが、データで裏付けられている。
ドジャースの捕手たちをデータで見ると、ベテランの
ウィル・スミスは20年には膝をついた割合がわずか7%だったが、25年には99%に達し、常に左膝をついている。一方、若手のダルトン・ラッシングは左膝が61%、右膝が37%と使い分けている。8月27日の
大谷翔平が先発したレッズ戦では、走者が出ると右膝をついていた。
ベン・ロートベットは右膝が53%、左膝が37%、両膝が7%というデータだが、9月12日の
山本由伸が先発のジャイアンツ戦、16日の大谷先発のフィリーズ戦では、カウントによって構えを変えた。若いカウントでは左膝、2ストライクからは右膝をついていた。こうした使い分けは、今後捕手のプレーを分析する上で新たな楽しみとなりそうだ。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images