
MLB史上7人目の60本塁打、スイッチヒッターおよび捕手としてのシーズン本塁打記録を更新したマリナーズのローリー。捕手としても投手陣をうまくリードし、チームを24年ぶりの地区優勝に導いた。肉体的にも最も過酷なポジションでこれだけの成績を残すのは、歴史的偉業だ
今年のア・リーグMVPレースは、ヤンキースのアーロン・ジャッジとマリナーズのカル・ローリーのどちらが選ばれるか、非常に興味深い。すでにジャッジは「ベースボール・アメリカ」誌の年間最優秀選手に、ローリーは「ベースボール・ダイジェスト」誌の年間最優秀選手に選出されている。
投票は公式戦終了時点で締め切られており、30人の記者たちは相当頭を悩ませたに違いない。ジャッジは打率.331、出塁率.457、長打率.688のいずれもMLBトップで、このスラッシュライン三冠をシーズンで達成したのは第二次世界大戦後で6人目となる。
一方のローリーは、メジャー史上7人目となる60本塁打を放ち、スイッチヒッターおよび捕手としてのシーズン本塁打記録を更新。守備の要としてマリナーズを地区優勝に導いた。だが、もしポストシーズンの成績も考慮対象だったとしたら、より多くの票がローリーに集まったのではないかと思う。
ジャッジはこれまでポストシーズンで結果を残せないと言われてきたが、今季は26打数13安打、1本塁打、7打点と見事な活躍を見せた。それでも、ローリーのパフォーマンスはそれを上回る。打撃面では、ア・リーグ優勝決定シリーズ第1戦でブルージェイズのエース、ケビン・ガウスマンから6回に同点本塁打を放ち、試合の流れを一変させた。
ポストシーズン全体では28打数10安打、2本塁打、5打点を記録している。さらに捕手として全試合でマスクをかぶり続けている点も特筆に値する。タイガースとの地区シリーズ第5戦では、15回に及ぶ死闘で7投手が投げた計209球を受けた。
それにもかかわらず、2日後にはア・リーグ優勝決定シリーズに臨み、2試合連続でスタメンマスク。そして、地区シリーズでヤンキース相手に4試合で34得点を叩き出した強力なブルージェイズ打線を、3対1、10対3と抑える見事なリードを見せている。
打つだけではない。ローリーはもともと捕手としての守備力にも定評があり、2024年には野球界最高の守備栄誉である「プラチナ・グラブ賞」を受賞している。今季も公式戦で159試合に出場し、そのうち121試合でマスクをかぶった。捕手としての出場イニングは1072イニングで、リーグ3位を記録している。
捕手のシーズン本塁打記録(21年の48本)を更新されたロイヤルズのサルバドール・ペレスは、「アーロン・ジャッジをとても尊敬しているけれど、捕手として投手を助け、守備も送球もこなして、さらにこれだけホームランを打つなんて信じられない」と絶賛。
ガーディアンズの
オースティン・ヘッジズ捕手も「捕手というのは、やればやるほど打者としては不利になる。足は疲弊し、考えることが多過ぎて精神的にも消耗する。それでも彼は毎日試合に出て、休養日ですらDHで打席に立つ。彼こそ真のMVPだ」と言う。
なお、マリナーズは今季の開幕前にローリーと6年総額1億500万ドル(年平均約1750万ドル)の延長契約を結んでいるが、今の活躍ぶりからすれば年俸3000万ドルの価値があると言って良いだろう。捕手という精神的にも肉体的にも最も過酷なポジションでこれだけの成績を残すのは、歴史的偉業なのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images