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長谷川晶一 密着ドキュメント

第二十七回 22年目で石川雅規に訪れた心境の変化 「目の前の1勝にこだわるよりは……」/43歳左腕の2023年【月イチ連載】

 

今年でプロ22年目を迎えたヤクルト石川雅規。43歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。現在まで積み上げた白星は185。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2023年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

石川の口から飛び出した「現役続行」宣言


9月8日のDeNA戦、今季11試合目の先発となった石川。6回1失点の好投も自身に勝敗はつかず


 リーグ3連覇を目指して臨んだ2023(令和5)年ペナントレース。東京ヤクルトスワローズは苦しい戦いが続いている。プロ22年目を迎えた石川雅規も2勝5敗と、なかなか勝ち星に恵まれない状態となっている。

「ヤクルトの場合は幸いにして、青木(青木宣親)や山田(山田哲人)が下を向くことなく、“さぁ、切り替えていこう”と大きな声を出しているので、日々新たなりの思いで試合に臨んでいます。とは言え、試合に負けたのに“はい、次、次”とはいかないので、今言ったことと矛盾するかもしれないけど、そこは単純に切り替えるんじゃなくて反省していかなくちゃいけない。今は、そんな気持ちで戦っていますね」

 石川自身の現状について質問すると、その口調が少しだけ厳しくなった。

「悔しいですよ、めっちゃ勝ちたかったですから。やっぱり、全部勝ちたいですから……。でも、反省ばかりじゃなくて、いいところも自分なりに認めていかないと次に繋がらないとも思います。そういう意味では大きなケガもなく、ここまでやってきているということは幸せなことだと思わなくちゃいけないのかな?」

 シーズンも残りわずかとなった。当然、石川の登板機会もあるだろう。残り試合をどのような心境で臨むのか? 質問を投げかけると、石川は淡々と口を開いた。

「あと何試合、登板機会があるかはわからないけど、“石川はまだできるぞ”というところを見せないといけないと思っています。勝利をもぎ取ることはもちろんだし、まだまだ投げられるぞというところを見せることも大事。もちろん、自分の立場もわかっています。チームとしては新陳代謝が大切だから、若い選手にチャンスがいくことも多いでしょうし……」

 さらに石川は続ける。

「……多いか、少ないかは別として、必ずチャンスはめぐってくると思うので、それを信じてやるだけです。周りから何を言われようとも、“ボロボロになるまでやりたいな”って思いはずっと持っていますね」

 改めて単刀直入に問うた。「それは、来年も現役続行するという意思表示ですか?」

「そうですね。まだ燃え尽きていないですから」

 石川の口から、改めて来季の現役続行宣言が飛び出した。

プロ22年目でたどり着いた新たな境地


 すでにプロ23年目を見据えている石川だが、ここ最近は「心境が変化してきた」という。具体的に、どのような変化が訪れたのか?

「今までは目の前の1勝、1勝を追いかけ過ぎてきたような気がするんです。もちろん、200勝までは1勝ずつの積み重ねなんですけど、目の前の1勝にフォーカスすることが結構、重くなってきてしまったんです……」

 目標としている通算200勝までは残り15勝となった。悲願の目標達成までは、目の前の試合で一つずつ白星を積み重ねていくしかない。しかし、ここ最近は「目の前の1勝」を追い求めることで心理的負担が増してきているという。ならば、今後はどんな心情で試合に臨むのか? 石川の答えはシンプルだった。

「目の前の1勝にこだわるよりは、ざっくりと15勝を目指していこうかなと思っているんです。今までは根を詰めて目の前の試合に臨んでいたんですけど、それがちょっときつくなってきたんです。中10日以上の間隔で登板しているから1試合にかける思いが強くなってきて、試合の前の日くらいから緊張して、メンタル的にしんどくなってきたんです」

 中6日程度のローテーション間隔であれば、月に4〜5回の登板機会が与えられる。しかし、登板ごとに投げ抹消を繰り返している現状の石川には、チャンスは月に2回程度しかない。当然、1試合にかける比重は大きくなる。

「そうですね、目の前の試合への思いが強すぎて辛くなってきたので、もう少し漠然とその先の目標を見据えるようにしたんです」

 登山に例えると、これまでの石川は常に足元を見据え、1歩ずつ丁寧に歩んできた。ふと、足を止めて振り返ると、「いつの間にここまで登ってきたんだろう」という高みからの景色を手にしていた。しかし、これからは少しずつ近づきつつある頂上を見つめながら、「もうすぐゴールだ」とワクワクした思いを抱きながら歩んでいこうとしているのだ。

「まさに、そんな感覚ですね。あまり根を詰めずにいろいろ意識しながら、気がついたら勝利を手にしていた。そんな気持ちで臨んでいこうと思っているんです。1人で走る長距離走は辛いけど、みんなでワイワイ話していたら、あっと言う間にゴールに着く。あの感じです(笑)」

 それが、プロ22年目にしてたどり着いた現在の新たな境地だった。

プロ23年目のシーズンを見据え、まだまだ歩み続ける


シーズン途中にヤクルトの一員となったロドリゲ ス。新外国人からも石川は何かを得ようと考えている


「自分の立ち位置も変わってきたし、もちろんチーム内での状況も変わってきました。当然、心の変化も生まれてきます。そういうことにも臨機応変に対応していきたいなと思っています。僕自身も、43歳で野球をするのは初めての経験なので、自分自身が実験台となって臨床試験をしている。そんな心境ですね(笑)」

 200勝まで残り17勝でスタートした2023年の石川だが、9月11日時点ではわずか2勝しかしていない。当然、納得のいく成績ではない。ここ数試合は立ち上がりをとらえられて失点を喫するケースが多かった。まだまだ反省すべき点は多い。だからこそ、石川の闘志はさらに燃え盛る。

「今年は初回の立ち上がりの無駄な失点が多かったです。立ち上がりが悪かったら、ブルペンでの投球を増やすとか、減らすとか、調整方法を見直す必要もあるでしょうし、これは永遠のテーマですね。まだまだ勉強しなくちゃいけないことは多いです」

 研究熱心で、技術向上に貪欲な石川の好奇心は枯れることがない。今シーズン途中から加入したエルビン・ロドリゲスも、新たな刺激となっている。

「まだロドリゲ スとは一緒にキャッチボールをしていないんですけど、彼はナックルカーブがすごくいいので、それはぜひ教えてもらおうと思っています。“日本で成功したい”という思いも強いし、すごくナイスガイなので楽しみですよ。でも、彼は僕のキャリアを知っているのかな? 年齢を言ったら、“えっ、43歳でまだ投げてるの?”って驚かれるかも知れないですね。あっ、白髪だからそんなに驚かないかな?」

 今春、石川は「せっかく外国人と接する環境なのだから」という理由でチーム内に英会話サークルを立ち上げた。

「この世界に入って20年以上も経つんだから、今から思えばもっと早くやっておけばよかったですね。でも、40歳を過ぎてから始めても全然遅くないですよね。やっぱり、通訳さんを介さずにダイレクトに意思の疎通が図れたら楽しいじゃないですか。アメリカ人の英語はなかなかヒヤリングできないけど、うちのチームのオスナの話す英語とか、イギリス英語は聞き取りやすい気がします。新しいことにチャレンジするのはやっぱり楽しいですよ」

 プロ22年目のシーズンが終わろうとしている。反省点も課題もある。近づきつつある山の頂を目指して、それでも今は真っ直ぐ、前を見据えて歩き続けるしかない。石川の挑戦は、まだまだ続く――。

(第二十八回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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