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長谷川晶一 密着ドキュメント

第二十八回 成績は不本意だった今季の石川雅規 光明はコンディション面での自信/43歳左腕の2023年【月イチ連載】

 

今年でプロ22年目を迎えたヤクルト石川雅規。43歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。現在まで積み上げた白星は185。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2023年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

息つく間もなく、2024年シーズンへ始動


石川の今季最後の登板は9月20日の中日戦だった


「もう2024年は始まっている感覚はありますね……」

 ペナントレースが終了して1週間が経過した頃、石川雅規は来シーズンに向けてのトレーニングを始めた。疲れ切った内臓を回復させるべく、すでに5日間のファスティング(断食)も終えていた。

「固形物は何も食べずに、酵素ドリンクだけで5日間過ごして内臓を休ませました。もう何度もやっているけど、全然慣れないです。ご飯を食べる時間が丸々空くと、一日がすごく長くて手持ちぶさたになるので、ずっと大食い動画ばかり見ていました(笑)。やっぱり、人間にとって“食べること”は幸せなことなんですね」

 ペナントレース終了後、ファスティングで内臓をリセットし、そして本格的な自主トレに臨む。シーズンオフとは名ばかりの「トレーニング」という名の日常が始まることになる。

「今日はルートヴィガーというところに行って、柔軟性を高めたり、可動域を広げたりするトレーニングをしてきました。今年1年続けていたんですけど、僕は元々、めっちゃ身体が硬かったのに、今では開脚してもうすぐ胸がつきそうなぐらいになりました。やっぱり、ずっと続けていると効果が実感できるようになるんですよね」

 石川は常々、「自分の身体を実験台にして、いろいろなことを試したい」と語っている。柔軟性を高め、可動域が広がったことによって、一体、何が変わったのか?

「ここ数年、年齢を重ねたことで足のハリやケガが多かったんですけど、今年はケガはなかったですね。ハリはあっても、今までのような強いハリはなかったです。今年に限っては、下半身の不安はなかったですね」

「下半身の不安はなかった」と石川は語る。では、上半身はどうだったのか?

「肩、ヒジに関しても、今年は何も問題はなかったですね。と言っても、今年はそんなに投げていないからという可能性もありますけど(苦笑)。でも、年齢からくる不安はなかったです。今年はコンディショニングに関してはすごく安定していたと思いますね」


今シーズン、「もっとも忘れられない試合」とは?


今年でもっとも印象に残っているのは中継ぎ登板した7月6日のDeNA戦だという


 先ほど、石川は「今年はそんなに投げていないから」と自嘲気味に笑った。2023年シーズン、彼は13試合に登板、63回1/3イニングを投げて2勝5敗、防御率は3.98という成績に終わっている。13試合の登板は、プロ22年目にして最少である。

「もちろん、まだまだ投げられたし、“もっともっと投げたかった”という思いはあります。だけど、評価というのは自分がするものではなくて周りがするもの。現在の自分の実力やチームでの立ち位置を加味した登板試合数、登板間隔だということはわかっています。年齢が近い和田(和田毅ソフトバンク)が100イニングを投げているので、やっぱり年齢の問題ではないということですよね……」

 前述したように、今季は13試合の登板で2勝5敗を記録した。13回の登板機会において、「もっとも印象に残っている試合」を尋ねると、「印象に残っている試合ですか?」と繰り返した後に、静かに口を開いた。

「……そうですね、中継ぎ(登板の試合)かな?」

 彼が口にしたのは7月6日、横浜スタジアムでの横浜DeNAベイスターズ戦だった。今季の石川は全13登板のうち、12試合に先発した。つまり、1試合だけ中継ぎでマウンドに上がっている。その試合を石川は挙げたのである。

「あの試合ではいろいろなことを感じました。そういう点では、僕にとって多くの意味、重みのある試合だったと思います。言い方は難しいんですけど、いろいろなことを考えさせられました」

 先発マウンドに並々ならぬこだわりを持ち、これまで先発投手として多くの勝利を積み重ねてきた石川にとって、「中継ぎ登板」というのは非常に稀有なケースだ。首脳陣にどんな意図があったのかはわからない。伊藤智仁ピッチングコーチは、その狙いを「石川に違う刺激を与えるため」と語っている。悲願の通算200勝達成に向けて、今後はこのような登板機会が増えていくのかどうかは、まだわからない。

「やっぱり、200勝という目標だけを考えれば、どんな起用法であっても、1勝は1勝ですけど、これまで僕なりに小っちゃいプライドも持っていましたから……。でも、チームが勝つための最善策であるならば、それはもちろん大切だし、嬉しいことだし……。ちょっと言い方が難しいですね」

 石川自身の中でも、頭の整理がつきかねているのか、この瞬間、少しだけ口が重くなったように思えた。

「何事にも何らかの意味はある」の思いとともに


 2023年の石川は、今季3試合目の登板となる5月10日の阪神タイガース戦で5回1/3を投げ、失点、自責点ともに0で勝ち投手となった。これでプロ入り以来22年連続勝利の偉業を達成。6月10日の埼玉西武ライオンズ戦でも勝利投手となったが、今季の白星はこの2試合のみとなった。

 5月30日の北海道日本ハムファイターズ戦では7回2失点の好投を見せたものの、1対2で惜敗した。その一方では、8月8日の広島東洋カープ戦から、今季最終登板となった9月20日の中日ドラゴンズ戦まで、4試合連続で初回に失点を喫するという課題も残った。

「原因はわからないんですけど、《初回の沼》にハマってしまいましたね。初回はすごく難しくていろいろ対策を練るんですけど、でも、考え過ぎると、意外と抜け出せない沼にハマっていきやすいんです。だから、変に意識しないことも大事なのかもしれない。三者凡退じゃなくてもいいし、何本ヒットを打たれてもいいから0点に抑える。そんな小さな成功体験を積み重ねていって抜け出すしかないのかな?」

 このオフの期間を通じて、石川なりに何らかの対策を講じて、来年の開幕に臨むことだろう。10月4日に全日程を終え、2月1日のキャンプインまで、丸々4カ月もある。プロ23年目を迎えようとしている大ベテランが、この期間を漫然と過ごすはずがない。

「そうなんですよ。キャンプインまで4カ月もあるんですよね。下手したら、世界一周旅行だってできる長さですよね。自主トレをするよりも、そっちの方が人生においてはプラスかもしれないですね(笑)」

 石川の口調は明るい。それは一体、どうしてなのか? その答えは、この日のインタビューで彼が何度も口にした、この言葉に尽きるだろう。

「2勝5敗という成績でしたけど、自分の中では“コンディションさえよければ、まだまだ投げられる”という手応えをつかんだシーズンでした」

 成績自体は不本意なものだったかもしれない。それでも、コンディション面での自信をつかんだのは、来季への光明となった。今季の成績によって、通算勝利は185勝となり、通算敗戦は185敗となった。改めて、この数字について質問をする。

「そうなんですよ、ついにトントンになりましたね。通算の負け数も歴代11位で、もうすぐワースト10入りしそうです。もちろん、一つでも勝ち星を増やしていきたいですけど、その一方では“よう負けたなぁ”とも思います。でも、それだけチームのために投げてきたということは誇りに思って、次につなげていきたいと思いますね」

 数字としては納得のいくものではなかった。それでも、泣いても笑ってもプロ22年目は幕を閉じた。キャンプインまで4カ月。23年目の開幕まではあと5カ月強もある。さらなるバージョンアップを講じるには十分な時間が、石川には与えられている。

「僕は、“何事にも何らかの意味がある”と思っています。今年の成績は決して満足のいくものではなかったけど、今年には今年の意味がある。そんな思いで、来年につなげていきたいと思っています」

 長かった一年が終わった。同時に、新たな長い一年が始まろうとしている。これから、どんなシーズンオフを過ごし、どんな思いでキャンプインの日を迎えるのだろうか? オフシーズンの間も、石川の努力と奮闘劇を追いかけていきたい――。

(第二十九回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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