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長谷川晶一 密着ドキュメント

第二十九回<特別編>現役引退の決意とは――石川雅規×坂口智隆 対談 後編/43歳左腕の2023年【月イチ連載】

 

2023年シーズンを終えて通算185勝。球界最年長選手の「小さな大投手」石川雅規に密着するこの連載。今年最後を飾る特別編として今回は、22年シーズンまでヤクルトでともにプレーした野球評論家の坂口智隆氏に、200勝へと歩みを止めない43歳の凄みに迫っていただいた。だれからも慕われ、言葉の力を信じるところも二人の共通点。それぞれの名言が紹介された書籍を互いに読んだという二人だからこその深い話が展開された。2日連続シリーズの後編は、引退の決断と続けるということについて[構成・長谷川晶一]。

坂口智隆――「僕が引退を決めた理由」


お互いの自著を手に持つ石川[左]、坂口氏[右]


――前編のラストでは「世代交代の波に抗う」という話になりました。坂口さんは2022年シーズン限りで現役を引退しましたが、その決意はどのようなタイミングでなされたのですか?

石川 あっ、それ僕もすごく知りたい。

坂口 自分の場合は「途中から試合に出ること」とか、「代打で出ること」を前提に準備を始めたということがきっかけでした。それまではずっと「絶対にレギュラーで出るんだ」という思いだったり、少なくとも、「右投手のときにはスタメンで出るんだ」と考えていたのに、気づけば「代打前提」となっていたんです。

石川 その気持ち、めちゃめちゃよくわかるな。たぶん、グッチも一緒だと思うけど、ある程度キャリアを重ねてくると、どこかで現状を受け入れなくちゃいけないときはくるよね?

坂口 絶対にそういうときはきますよね。

石川 正直、「オレは今でも中6日で投げられる」という思いは強く持っているけど、現状はそうはなっていない。グッチの場合も、ずっと試合に出ていたのに、代打で出ることが多くなってきた。そんなときに、「どうやって現状を受け入れるのか?」って、すごく大事になってくるよね。だって、現状を受け入れないことには、その先には進めないから。

坂口 たぶん、石川さんの場合は、まだ受け入れられない部分があるから、今も現役を続けているんだと思います。僕の場合はすべてを受け入れてしまった。そうすると、「何かちょっと違うな?」っていう部分が出始めてしまったんです。

石川 確かに、投げ抹消で先発することを受け入れることに時間はかかったし、今でもすべてを受け入れられているわけでもないと思うけど、「それでも前に進んでいこう」という思いは忘れないようにしているけどね。今、グッチが言った「ちょっと違うな?」っていうのは、具体的にはどういうことなの?

坂口 何て言うんですかね、「レギュラーを取るぞ」と思っていたときには、たとえ代打での出場であっても、ある程度の結果は出ていたんです。だけど、「スタメンの準備」ではなく、「代打の準備」をするようになってからは、代打で出ても結果が伴わないことが増えていきました。

「まだまだ中6日での先発にこだわってほしい」(坂口)


石川にフル回転で投げることを望んでいる坂口氏


石川 やっぱり、気持ちの変化は大きいよね。体調の変化はあったの?

坂口 ありましたね。でも、やっぱり気持ちの変化が大きかったような気がします。「スタメンの準備」をしているときには何とも思わなかったのに、「代打の準備」をするようになってからは、些細なことが気になるんです。代打で出るのは試合の終盤が多いけど、すでに空は真っ暗じゃないですか。今までは何ともなかったのに、その暗さが気になり始めました。それで、自分のスイングが何もできなくなっていった感じがしました。

石川 前回も話したけど、やっぱり、「気持ちが身体を動かす」というのは絶対にあると思うよね。

坂口 だから、僕がこんなことを言うのもなんですけど、もちろんチーム事情もあることは理解しているけど、石川さんにはまだまだ「中6日での先発」にこだわってほしいです。一ファンとして言えば、まだまだ身体も丈夫だし、それだけの技術もあると思います。ぜひ、これからもフル回転で投げてほしい。そんな思いは強いです。

石川 そうだね、来年こそはフル回転でいきたいな。

坂口 2023年シーズン、初めて外から野球を見させてもらいましたけど、グラウンドで見ていた石川さんと、放送席から見た石川さんはイメージ通りでした。もちろん打たれることもあるけど、抑えるときは、昔僕が感じた「本格派左腕」のイメージのままでした。バッターのインサイドに迷いなく投げることができる度胸は何も変わっていませんでしたから。

石川 そこに投げないと抑えられないから投げているだけなんだけどね(苦笑)。

坂口 僕がヤクルトにいた頃、ファーストから石川さんのピッチングを見させてもらうことも多かったけど、軸足で立ったあと右脚が着地するまでの微妙な間を変えているのを間近で見て、「バッターからしたら、めっちゃイヤやな」って思っていました(笑)。

石川 やっぱり、タイミングをずらされるのはバッターにとってイヤだろうね。バッターは自分のタイミングでスイングしたいし、ピッチャーは少しでもタイミングをずらしたい。野球というのは、その勝負だと思っているから。だって、少しタイミングがずれただけで、打球がフェンス手前で失速することもあるわけだから。

石川、青木、川端、石山……、「おじさんズ」でチームを引っ張る


200勝を目指して来年もさらに活躍を誓う石川


坂口 プレートの位置を変えて投げることもありましたよね。バッター目線で言うと、自分の手元に来るボールはそんなに大差がないのに、「あれ、何か違うな?」と感じることがあるんです。それでピッチャーを見ると、プレートを踏む位置が違っていたりする。特に曲がり球の場合は、その違和感はさらに強くなりますね。

石川 僕自身、「プレートの位置を変えるだけで球種を1つ増やした」という感覚でいたいんだよね。そうやって、ピッチャーとバッターは常にタイミングのずらし合いをしている。それが、野球というスポーツの大きな特徴だという気がしますね。

坂口 石川さんの本(『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』=長谷川晶一著)を読ませてもらったけど、「僕は自分で自分に期待する」って言葉、めっちゃいいなと思いました。自分自身に期待できなくなったら、それこそ終わりですから。

石川 嘘でもいいから、期待したいよね(笑)。でも、リアルに「今年はめっちゃ勝つんじゃないかな」と思っていたのに、結果は2勝で終わって、ことごとく自分に裏切られっぱなしでした。それでも、やっぱり自分に期待はしていたいな。

坂口 でも、長くプロでやっている人は、その「期待」を間違えないと思うんです。例えば、石川さんの場合は「160キロを投げたい」という期待はしないはずだけど、「今の投手陣で、どうすればローテーションに入れるか?」ということを見極めた上で、自分に期待をするはず。「期待の仕方を間違えない」というのも、長くやっていくコツだと思います。

石川 僕は、グッチの本(『逃げてもええねん――弱くて強い男の哲学』)に書いてあった「自分を演じる」という考え方がすごくいいなと思ったな。「なりたい自分」を演じていることで、実際にいい方向に向かうということはよくあることですからね。

坂口 若い選手たちの前では、やっぱり情けない姿を見せられないから、演じている部分も多々ありましたからね。そういう意味では、本当の自分をさらけ出せる「おじさんズ」の存在は本当に大きかったですね。

石川 グッチが引退して、「おじさんズ」もメンバーが減ったけど、青木(青木宣親)もいるし、そろそろ慎吾(川端慎吾)や石山(石山泰稚)も「おじさんズ」の仲間入りなので、孤独を感じずにまだまだ頑張れそうです(笑)。

坂口 僕の希望としては、「おじさんズ」がスタメンに並ぶ試合を見たいですね。きっと味のある試合が見られると思いますね。来年も期待しています。

石川 そういう試合をきちんと勝利していければ、チームも乗っていけると思うしね。200勝目指して、来年もさらに頑張ります!

(第三十回に続く)

写真=BBM

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