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【高校野球】メインのノッカーを担当した横浜翠陵高の女子部員 「忙しかったですが、楽しかったです!!」

 

自ら試合前ノッカーを申し出て


横浜翠陵高・高柳は女子部員登録をした上で、試合前ノッカーを担当[写真=BBM]


 神奈川の春季県大会の試合前ノックは10分である。昨秋の県王者・桐光学園高との2回戦(4月7日)。プレーボール前の大事な調整の場で、横浜翠陵高は女子部員の高柳依奈(3年)がメインのノッカーを担当した。

 中学時代はバドミントン部に在籍。かつてラケットを持った左打ちで、リズム良く、内野ノックを打つ。捕手の送球前のゴロも、手で丁寧に転がす。次に外野ノック。一部、学生コーチを挟んで、外野最後のバックホームでは再び、高柳がノックバットを握った。ラストは、内野バックホームで大役を終えた。

「最高のノックでした!!」

 横浜翠陵高・田中慎哉監督は絶賛した。

「手を見てください。ものすごいマメなんです。最初は外野に飛ばなかったんですが、ものすごい上達です。女子部員がノックを打ち、ボール渡しも女子マネジャー。3年生の全13人がそれぞれの立場で野球をやっている」

 高柳の兄・青生さんが市ケ尾高で外野手としてプレー(現・明大体同連硬式野球部)。その姿にあこがれ、高柳は中学時代にプレーしたバドミントンの競技者の道は一区切り。横浜翠陵高では、硬式野球部に入部した。女子マネジャーとして裏方に徹していたが、2年秋の新チームで転機を迎える。「記録員は一人しかベンチ入りできない。同期の部員で一緒に活動してきた女子マネジャー・山本純白と3年夏の大会に挑みたいと思いました」。そこで、高柳は自ら試合前ノッカーを申し出た。

「意志が強かったんです。考えを尊重しました」(田中監督)

 2011年の男女共学化に伴い現校名となった横浜翠陵高の建学の精神は「考えて行動のできる人の育成」。同校の教えを体現したのだ。

 本人の決意は固かったが、現実は厳しかった。

「野球未経験ですので、バットにもボールが当たらない(苦笑)。父、兄にも練習を手伝ってもらい、部員からもたくさんのアドバイスをもらいました」(高柳)

何度もマメがつぶれるほど猛練習


横浜翠陵高の3年生マネジャーは2人いる。記録員は1試合ごとに回しており、1回戦を突破し、高柳は2回戦でノッカー後に記録員も担った[写真=BBM]


 県大会でのノッカーデビューは、昨秋の1回戦(鶴見大付高)だった。試合は6対9で初戦敗退。田中監督は回想する。

「8失策と守備が乱れたんです。試合後、高柳はずっと泣いていました。自身のノックのせいであると、責任を感じていたそうです。そんなことはないんですが……」

 冬場はより一層、力を入れてノッカー技術を磨いた。何度もマメがつぶれた両手は、固まっていた。迎えた今春の県大会。「昨秋よりも落ち着いてできました」。1回戦、2回戦と無難にこなした。2回戦ではシートノック後、ユニフォームから制服に着替え、記録員としてベンチ入り(1回戦は山本マネジャーが記録員)。試合は0対14の5回コールドで敗退。大差はついたが、内、外野とも好守備を披露。昨秋からのレベルアップを印象づけた。言うまでもなく、高柳のノックの賜物だ。

「忙しかったですが、楽しかったです!!」

 春の敗退で、残すは夏の神奈川大会となった。ここで負ければ、高校野球生活の引退である。目指すは「ベスト32」。横浜翠陵高は2013年から夏の選手権地方大会に参加し、過去最高成績は15年の3回戦進出。初の大会複数勝利を挙げ、4回戦を目指している。

「私たち12期はマネジャー2人を含めて3年生13人。2年半、泣いたり、笑ったりして過ごしてきた仲間たちと、最後までグラウンドで戦いたいです」(高柳)

 高校野球には、学校ごとに、かけがえのないドラマがある。2024年夏の集大成。横浜翠陵高の3年生13人は残された日々を後悔なく、中身の濃い時間を共有していく。

文=岡本朋祐
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