キャンプ序盤、昨季、チーム最多登板の中田廉が右肩痛で一軍キャンプを離れた。セットアップを期待される右腕の出遅れはチームにとっての一大事だが、チャンスをつかもうとする者にとっては貴重な一枠となる。5年目の23歳が、責任ある役割に高々と名乗りを挙げた。 取材・構成=菊池仁志、写真=小山真司、川口邦洋 フォームと気持ちの安定
黒田博樹が8年ぶりに復帰して充実度を高めている
広島投手陣。しかし、リリーフの顔を眺めれば、決して層が厚いわけではない。抑えを任されるヒースも8回が濃厚な
一岡竜司も、1シーズン働いた経験はない。そして中田廉の離脱により、7回の役割が固まらない現実。ただ、それをチャンスに変えようと目の色を変える若鯉もいる。
今年の目標はまず、開幕一軍に入ることで、そこを目指して取り組んでいます。今年は後ろ、中継ぎ一本でいくと言われているので、7回、8回、あるいは9回、そういう大事なところをしっかりと任せられるような安定した投球がしたいと思っています。チームの勝利を左右する役割ですし、プレッシャーのかかる場面でもあります。そういうところにやりがいを感じるので、自分のモノにしていきたいですね。
去年は6月を過ぎて一軍に合流して32試合に投げましたが、中継ぎでは毎日準備しますし、必要であれば毎日投げることになるんですけど、その中でも調子に左右されることなく、毎日同じパフォーマンスができなければならないという難しさを感じました。
ただそれができるように努めることが自分を高めてくれたように思います。調子の波も一軍に上がってすぐのころは感じたのですが、夏場を過ぎてシーズンが終わるまでは、調子とかそういうことを気にせずに投げられました。終盤の2、3カ月は常に同じパフォーマンスが出せたつもりです。
その要因はフォームが安定したことが一つだと考えています。しっかり右足で立つところから意識して、左足が着地するところまでの動きを意識しました。そこからの腕の振りはこれまで何千、何万とやっている動きなので自然とできるのですが、下半身がブレると腕の振りもブレてしまいます。下半身の動きを安定させることでパフォーマンスも一定になったということです。

安定した投球フォームを確立したことが昨季終盤に生きたと中﨑。1年間通して活躍するためのカギを握るとも言う
あとは気持ちの面ですね。これまで以上に役割を果たさないといけないという思いが強くなりました。それも7回や8回、最後の方は9回を投げさせてもらって、どんどんしんどいポジションに移っていく中で強くなったと感じます。それが良い方向に出たのではないでしょうか。今までも責任感は持っていたつもりですが、誰かに頼りたい部分も多少なりともあって、そういう甘えがなくなったことで強い気持ちでマウンドに立てるようになったと思います。
抑えを狙え!
今季を迎えるにあたり、「クローザー獲り」を宣言することもあった
中崎翔太。自身の現状を見つめ、課題も把握するが、「いつかは」という高い志は常に胸の内にある。チームでは
横山竜士が10年に11セーブをマークして以降、2ケタセーブを挙げた日本人を欠き、抑えの座を外国人投手に譲っている。しかし、安定して上位で戦うには長く活躍できる日本人クローザーの確立は欠かせない。
抑えってカッコいいって思うんです。最後のマウンドに立っていられるピッチャーですから。それだけの重圧、責任感があるポジションで、チャンスがあるなら狙っていきたいという気持ちを多少は持っています。ただ、今の自分ではそのポジションを務めるために足りていない部分がたくさんあると思うので、開幕までの間でもしっかりレベルアップして、そこを奪っていく気持ちは持っておきます。その気持ちを持っていないと到達できない場所ですから。
足りない部分で言えば、一つは変化球。自信を持って使えるのはスライダーくらいなので、シュート、フォーク、カーブの精度を高めようと取り組んでいます。短いイニングを安心感を持って終えるためには三振を取るのも一つのポイントになります。そのためにスライダー、フォークで空振りを取れるようにしたいです。あとは走者を出したときも落ち着いて打者と対峙できるようにフィールディングに不安をなくすことですね。
今年は外国人が抑えを務めることになると思いますが、負けたくないという気持ちはありますし、取り組んできたことを比べたら自分の方が確実に上を行くはずです。簡単に引き下がるわけにはいかないですし、僕はそうやって意識してやっていきたいです。
ただ、能力的にはすべてで負けているので、何か一つでも上回ったものを持てるように。今は真っすぐ、それがひと皮むければ自信も持てると思います。
ストレートのキレ、威力、150キロ出るならそれに越したことはありません。それに加えて、球速以上に見える真っすぐを追い求めてやっています。やはり、真っすぐで空振りを取ったり、ファウルを取れたりすると組み立てがラクになります。それができる真っすぐをどんどん増やしていきたいです。それが変化球にもつながってくると思うので。
恩師の思いを胸に
13年オフに右手血行障害の症状緩和の手術を受け、リハビリのために一軍合流は6月にずれ込んだ。しかしその後、入団4年目の右腕を小さなことには目をつぶり起用し続けたのが
野村謙二郎前監督だった。経験から得る自信は何よりの心の支えとなる。
阪神とのクライマックスシリーズ(CS)第2戦(10月12日、甲子園)では0対0の延長10回にマウンドに上がり、失点イ
コール敗退のプレッシャーの中で2イニングを無失点に抑えた。前監督の思いを受け止め、さらなる成長を誓う。
昨年はCSでも登板の機会がありました。前日は0対1のゲームだったのですが、初めてのCSですごく緊張してアタフタしていました。出番がきたらどうしようという感じです。それが第2戦はすごく落ち着いて試合に臨めた感じがあります。腹をくくるって、ああいうことだと分かりました。あとがなく、何が何でもやらないといけない状況。マウンドでは何も考えず無心になれました。

昨年の経験から「無心。腹をくくるってことが分かりました」という
昨年の7月の終わりくらいだったと思います。戸田(隆矢)と二人で監督室に呼ばれて話をしていただいたことがありました。そのときまではまったく結果を出せていなくて(7月末時点で7試合登板、防御率7.50)、何度も何度も同じことを繰り返している状態だったのですが、そのときに「このままなら今までやってきたことがムダになる」という話をしていただきました。
「マウンドでは打者を抑えることしか考えるな。自分の球を思い切り投げ込めば大丈夫だから」と言われて。その言葉で自分が吹っ切れた感じがあります。その後から良くなり始めたと思いますからね。
それまでの自分はやろうとしていることができていなかったり、それどころか、できていると自分で思っていても周りから見るとできていないこともたくさんありました。自分が見る自分と、周りから見る自分の違いを知ることができた言葉でもあったんです。
そしてそのままだったら野球人生が終わってしまうと思って、もっと必死に一球に全力を尽くすようになりました。あのとき、野村監督に話をしていただいたことが今の自分につながっています。ただ、昨年で監督を辞められて、僕は何も恩返しができませんでした。これからもっと成長した姿を見せていけるといいと思っています。
開幕に向けて、今年はマエケンさん(
前田健太)から誘っていただいて、一緒に自主トレをさせてもらいました。ストレッチからトレーニング法までいろいろと学べましたし、トレーニングに取り組む姿勢のすごさを感じたり、トレーニングの重要性を教わったりとすごく有意義に過ごすことができました。自分がこれまでにやったことがないトレーニングがたくさんあっただけでなく、これまでやってきたことでも、その必要性とか正しいやり方を学べました。広島は先輩方から声を掛けていただけることがすごく多くて、ありがたいです。

1月にはチーム前田で自主トレに励んだ。球速アップを目的に筋力アップを図った
今年はチームとしては優勝しか考えていません。個人としてはそのチームに少しでも貢献できるように、1球1球、全力でプレーしていきます。開幕から一軍で投げて昨年の成績をすべてで上回って、そこから新たな目標を見つけていけるのがベストですね。1年間、一軍で投げ続けたらチームに貢献しているということだと思うんで、まずはそこを目標に頑張ります。
【番外編】中崎翔太のアピールポイントベスト3
(1)1球に全力を尽くす 姿勢悔いを残さないためにも自分にできるすべてを、その1球に注いでいく。その積み重ねです。
(2)真っすぐ! 昨年以上のボールを投げる手応えはありますけど、ただ、まだ物足りない感はあります。
(3)安定した投球 昨年の結果が少なからず自信になっている部分があります。昨年のいいときのパフォーマンスを1年間出し続けられるようにしていけるかが大事です。
PROFILE 生年月日/1992年8月10日。身長・体重/186cm・96kg。出身地/鹿児島県。球歴(出身校)/財部小では財部サンデーズ(軟式)に、財部中では都城リトルシニアに所属。日南学園高では2年秋にエースとして宮崎大会で優勝。九州大会は初戦で嘉手納に敗れてセンバツ出場は逃した。3年夏は宮崎大会ベスト8で敗退。11年ドラフト6位で広島に入団。プロデビュー(一軍)/2012年3月30日中日戦(ナゴヤドーム)