開幕2日前の3月25日、熊崎勝彦コミッショナーが試合時間短縮(時短)を目指してコミッショナー宣言を発表した。開幕直前の異例の呼びかけは、これまでなかなか効果が上がらなかった時短への取り組みを大きく前進させたいという決意表明だった。 写真=BBM あらためてルールを周知徹底
開幕前に「コミッショナー宣言」を発表した熊崎勝彦コミッショナー
コミッショナー宣言では常に魅力ある試合、多くのファンに歓迎される試合を目指すことを意図し「今シーズンより、ゲームオペレーション(運営)の一つとして、日本のプロ野球の素晴らしさをより高めるべく、スピーディーな試合進行の実現に挑戦する」とした。同時に「試合のスピードアップについて」という注意書きを作成し、セ・パ両リーグのアグリーメントに記載されている時短に関するルールを各球場のロッカールームに掲示することにした。
プロ野球はこれまでにも時短に試行錯誤してきた。2011年3月の実行委員会では、試合運用のルールとして作成した「PACE OF THEGAME」を承認。両リーグのアグリーメントに記載した。そこにはイニングインターバルは2分15秒以内にプレーを再開すること、投手交代ではイニング間は2分45秒以内、イニング途中は投手交代通告から2分45秒以内にプレーを再開することが記され、専用球場では経過時間が掲示されている。
また、投手は無走者時にボールを受けた後15秒以内に投球する「15秒ルール」や、打者が理由なく打席を外せない規則を厳格に適用し、タイムを認められないまま打席を外してストライクゾーンに投げられれば「ストライク」となることなどが詳細に規定されている。これらのルールはもちろん現在も有効だが、厳しく適用されているとは言い難い。昨季の平均試合時間はパ・リーグが過去10年で最長の3時間23分、セ・リーグは2リーグ制となった1950年以降で最長の3時間21分だった。今回の注意書きはこのルールをあらためて周知徹底するものだ。
野球の面白みとの両立はできるのか
熊崎コミッショナーは今季、時短を大きなテーマに掲げた。若年層への普及や五輪での復活を目指し「3時間を超えるエンターテインメントは原則的にはない。熱戦は別として3時間に収まるはずのものは収めないと。野球は7、8、9回が面白い。(午後6時試合開始で)子供が球場から9時には帰れないと」と本腰を入れている。
2月の春季キャンプでは宮崎県と沖縄県で12球団の監督を訪問し、時間短縮のアイデアをヒアリングして集約。この時点で、各球団の監督からは選手が打席に入る際の登場曲の短縮、イニングの間のファンサービスイベントの短縮、人工芝球場ではグラウンド整備の回数を少なくする、敬遠四球で投球を省略するなどの具体策が集まった。
さらに、実効性を追求するため、ゲームオペレーション委員会を立ち上げ、2月26日には第1回会合を行った。会合には球団幹部に加え、日本野球機構の審判部、さらに初めて日本プロ野球選手会も参加。現場の声を反映する画期的な取り組みとなった。
DeNAの三原一晃球団取締役が座長を務め、
中日、
ヤクルト、
オリックス、
西武の代表者を中心にワーキンググループもつくられ、7月には12球団の監督と議論する監督会議の開催も決まった。
ただ、試合の長時間化の理由としては投手の分業制の確立によって投手交代が増えたことや戦術やサインの複雑化、ファンサービスの充実など野球の発展による要因も少なからずある。また、プレー中の駆け引きや間(ま)といった心理戦が野球の魅力の一つだとの声も根強い。熊崎コミッショナーも「短縮のための短縮ではない。日本の野球の魅力を損なわない中での短縮を検討する」としており、来季以降に向け、実際に試合のどの部分に時間がかかっているのかをデータ化して分析する作業を行うという。
野球の面白みと試合時間短縮は両立できるか。現状では罰則規定などはなく、まずはルールの周知徹底を呼びかけて監督、コーチや選手の意識改革を促すところから始めるが、熊崎コミッショナーは「試合をスピードアップしたチームは推奨し、いつも遅いチームには警告などを与えることも検討する」としている。