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第64回 スピードアップは誰のため?――何が本当にムダで、何が大事なのかをいろいろな角度から論じるべき

 

 日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーは、2015年を試合のスピードアップ実現のシーズンと位置付けている。昨年12月にアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで開催されたメジャー・リーグ機構(MLB)のウインターミーティングでは、試合のスピードアップの必要性について協議。バド・セリグ氏の後任としてMLBを統括するロブ・マンフレッド新コミッショナーもスピードアップを重視しており、日米共通の懸案という色合いが濃い。

 野球が20年東京五輪で正式復帰する可能性が広がり、スピードアップは無視できない状況だ。除外時に長時間の試合がネックとなっていただけに、スピーディーな試合運びは五輪復帰を願う球界全体の責務でもある。五輪復帰を目指し、時間短縮のために世界野球ソフトボール連盟(WBSC)のリカルド・フラッカリ会長はタイブレークや7イニング制などの導入も提案したが、一部には「野球でなくなる。時間短縮とスピードアップは、根本的には別問題」という反対の声もある。

 MLBがスピードアップを図りたい理由には、莫大な放映権料を生むテレビの存在がある。全米4大ネットワークもあるが、特にすさまじいのがスポーツ専門ケーブル。現地報道によると、大手のESPNが14〜21年までの8年間で56億ドル(約4400億円)の契約を結んだとされており、年間にすると7億ドル(約550億円)にもなる。テレビ側は当然、コンパクトに試合が予定時間に収まることを希望。大きな発言力をもってMLB側に働きかけているのは、想像に難くない(金額は推定)。

▲MLBのマンフレッド新コミッショナーも試合のスピードアップを重視。日本も同調するようだが……[写真=Getty Images]



 試合時間の長期化を、日本のテレビ業界も歓迎していない。プロ野球がひと昔ほど視聴率を取れなくなった昨今、放送の延長は望めない。ゲームセットまで見せるためにも、スピードアップは大切なファンサービスなのだ。

 日米では今年から、具体的、抜本的なスピードアップに乗り出そうとしている。走者なしの場合は12秒以内、いる場合は20秒以内に投球する――など、しっかりと適用されていなかった従来ルールの徹底を図るとともに、新たな発想の新ルールも検討。例えば、敬遠の場合はバッテリーの宣言後に自動的に打者が一塁に歩くなどの時短策も挙がっている。

 関係者、特に現場レベルでは、これらの考えにアレルギーを示す者が多い。野村克也楽天監督は「ダラダラしたプレーは問題外だが、駆け引きには時間がかかるもの。それを削ぐと、野球の醍醐味が失せる」というのが持論。あるリーグ関係者は「誰のためのスピードアップか疑問。ここぞの場面で、クロマティや新庄ら、過去に敬遠のボールを打った打者もいる。まさかというタイミングに、後世に残るドラマを生む要素が潜んでいる」と力説する。

 セ、パ両リーグでは、試合の短縮を選手に促す意味も込めて、特別表彰の「スピードアップ賞」(昨年はセが「テンポのいい投球リズム」でDeNA三浦大輔、パが「攻守交代時の機敏さ」で西武栗山巧が受賞)を設置している。14年の平均試合時間は、セ・リーグが前年度より1分長い3時間21分で、パ・リーグは前年度と同じ3時間23分。確かにスポーツとしては冗漫と受け取るファンもいそうで、NPBの目標は「3時間以内」だ。まずルールをいじる前に、スピードアップがなぜ必要なのかという大前提を見過ごしてはいけない。そして何が本当にムダで、何が大事なのかをいろんな角度から論じてほしい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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