注目度NO.1ルーキーとして、周囲の期待を一身に浴びてプロキャリアをスタートさせた松井裕樹。高卒新人ながら開幕先発ローテ入り、二軍落ち、中継ぎに配置転換、プロ初勝利、先発復帰……。もがき苦しみながらも未来への光も見せた黄金左腕。その激動の1年を振り返る。 写真=BBM 技術も心も磨かれた1年
長く、濃いプロ1年目が間もなく終わろうとしている。思うように勝てず、悩んでいたころは弱音も吐いた。「すぐに通用すると思っていた」と周囲に漏らしたこともあったという。弱冠18歳の左腕にとって、人生で初めてと言っていいほどの挫折を何度も味わった。
27試合で4勝8敗、防御率3.80。同じ高卒でプロの門をたたいた偉大な先輩・
田中将大が07年に残した11勝には遠く及ばなかった。だが、確かな可能性は感じさせた。
ずっと見守ってきた
星野仙一監督も時間はかかったが、左腕の成長を感じ取った。
9月23日の
ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で強力打線を相手にプロ最長の8回を投げた。8回130球を投げて6安打2失点。1点を争う緊迫した試合で最後は気持ちで乗り切った。
「初めて8回を投げて完投は難しいと感じた」。
1点リードの8回二死一、三塁の場面では
柳田悠岐にオール直球勝負で空振り三振。闘将は「立派だった」と賛辞の言葉を贈った。
技術も心も未熟だったころから変わった。プロ1勝を挙げることが、どれだけ難しかったことか。高卒新人ながら先発ローテ入りして開幕5戦目のマウンドを任された。しかし、そこから4試合に先発して0勝3敗で防御率6.05。4月23日の
西武戦(コ
ボスタ宮城)の試合後、二軍降格を告げられた。
昨年の10月に5球団が競合の末に
楽天に入団。周囲の期待は大きかった。自身でも感じていた中で「勝ちたい」という一心が焦りとなった。
19回1/3でイニング数を大きく上回る24四死球。決して相手に打ち砕かれたわけではない。自滅して白星を遠ざけ続けた。
初勝利を手にしたとき、すでに開幕から3カ月が経過していた。7月2日の
オリックス戦(京セラドーム)。2点リードの5回途中から勝利投手目前の宮川に代わって登板。2回1/3を2安打5三振で無失点。待ち望んだプロ1勝。この日から監督代行に就任した
大久保博元二軍監督が白星のかかる場面で勝負を託し、その期待に応えた。
「長かった。いろいろつらいこともあったので」。そう実感しながら、ウイニングボールを握る手にギュッと力を込めた。
開幕当初、誰もが18歳左腕の活躍を信じて疑わなかった。それは本人も同様だ。
2年前の夏、松井裕樹は全国の野球ファンの注目を集める存在となった。2012年8月9日、甲子園1回戦の愛媛・今治西戦で10者連続を含む1試合22奪三振の新記録を樹立。高校生NO.1左腕としてプロの門をたたいた。
オープン戦4試合16イニングで2失点、防御率1.13。四球もわずかに2つ。星野監督も「ここまでのボールを投げられるとは、いい意味で意外だった」と称賛した。だが、逆にこの好投が、プロ1勝までの道のりを険しいものにもした。
去りゆく闘将への思い
最も苦しんだのが制球。そして走者を背負ったときのクイックモーションだ。周囲と比べて群を抜く実力を持っていた高校時代は、走られることもほとんどなかった。四球を出しても、後続を打ち取れば良かった。
だが・・・
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