週刊ベースボールONLINE


  4

今季、6月から監督代行としてチームを率いた田邊徳雄監督。シーズン終了間際の10月2日、来季正式に監督に就任することが発表された。5位に沈んだチームの再建を託された48歳。武骨に、難題に挑んでいく。
取材・構成=小林光男 写真=内田孝治



殻を破るために課した猛練習


 山梨県人の気質は「忍耐強く、辛抱強い」のだという。世界遺産にも登録された富士山を望む富士吉田市出身である田邊徳雄監督。山梨県人としては巨人の指揮官を務めた堀内恒夫氏以来のNPB監督となる自らを、「ポーカーフェースで何を考えているか分からないんじゃないですかね」と評す。確かに話を聞いていても、淡々と言葉を継ぎ、あまり感情の起伏をこちらに見せることはない。しかし、胸の内にある情熱は言葉の節々からは感じられる。5位に終わったチームの再建を託された田邊監督。大言壮語することなく、富士山のような日本一のチームを築く。

 監督代行から監督になりましたが、あまり鼻息を荒くせず、変わらずに指導していこうと考えていますよ。ただ、秋季キャンプは厳しい練習を課しました。特に若い選手は、殻を破るためにそういった練習を乗り越えることも必要。でなければ新しい自分を発見することもできない。

 当然、それは自身の経験から来ています。何度も何度も同じ動作を繰り返して、体に染み込ませることができて、初めて一つ技を習得できたなという実感があったので。若手のころは、自分が一番下手くそだ、と思っていましたからね。練習を重ねるたびに、いろいろなモノを吸収して、どんどん上手くなるから、厳しい練習も耐えられた。

 それにコーチ時代、若い栗山(巧)や中村(剛也)を指導して、彼らはこちらの厳しい要求にも応えてくれて、その成長度の早さも見ていますから。自分の指導スタイルの中で、その経験は大きなウエートを占めている。今の若手も、例えば栗山のポジションを奪おうと思ったら、並大抵の努力ではそれができるわけがない。やっぱり、「野球バカになれ」と言いたいですね。プロ野球選手は1年契約で、野球を生業としているんですから。だったら、野球以外には脇目も振らない野球バカになるときがあっていいと思います。本当にこの世界で生き残ろうと考えているんだったら、それくらいの意気込みがないとレギュラーを蹴落とすことなんてできないですよ。

自分の頭で考えて生き残りを図れ!


▲秋季練習から選手に厳しい練習を課したが、これも成長していく上では必要なことだ



 西武が黄金時代を築き上げようとしていた1985年ドラフト2位で入団した田邊監督(1位は楽天大久保博元監督)。自らが監督となり背負った背番号90を着けていた広瀨宰コーチと1年目から野球漬けの日々を過ごし、プロ野球選手としての基礎を体に刻んでいった。3年目からショートとして頭角を現し、チームの日本一に貢献できたのは「練習を重ねた」からこそという思いは強い。だから、「野球バカになれ」と説く。

 今の選手はアマチュア時代から大事に、段階を踏んでプロまで進んできたんでしょうけど。ただ、日本のトップリーグでプレーするということは、選ばれし人間がそろっているということ。ということは、ほかの選手と同じようなことをやっていては抜きん出ることはできません。どうすれば自分の方が目立つようになるのか。そこの部分を自ら考えて、練習などに取り組むことも必要です。

 そのために秋季練習から、なるべく同じタイプのグループに分けて練習させました。例えば足が速い、左打ちの選手のグループ。その中で、どのようにアピールしてくれるか、と。せっかく足が速くても、塁に出ることができなければ意味がありません。だったら、どのようなバッティングをすればいいのか。それまでバットを長く持って振り回すバッティングを繰り返していたら、バットを短く持ちミート中心のスタイルに変えようとか。同じタイプの選手の中で生き残るためにやるべきことを考えたら、おのずとプレースタイルは変わってくるはずなんですよね。

 期待している選手は全員ですよ。とはいえ、悲しいかな、差が出てきてしまいます。ただ、そういう状況でも、チャンスがどこに転んでいるのか分からないので、あきらめずにいてほしい。1シーズンを戦っていく中で、必ずケガ人などが出てきますから。ファームの選手でも、常にベストコンディションをキープしておいてもらわないと、急きょ「一軍だ」と言われたときに対応できないでしょう。

 監督として、ファームから上がってきた選手をすぐに使うという信念もありますから。一軍の舞台で結果を残してほしい。そういった選手が増えれば増えるほど、レギュラーへのいい刺激になりますし、チャンスをつかんでそのままレギュラーになることもあり得る。その選手が若ければ若いほど、長くチームに必要な選手として働き続けてくれるでしょうから。とにかくチャンスは積極的に与えたいですし、そうすればファームの選手も緊張感を持って毎日を過ごしてくれるのかなと思いますね。

粘り強いバッティング
中継ぎ投手陣の強化


 今季、開幕から波に乗れなかったチームは、6月4日に伊原春樹監督が休養となり、田邊監督が監督代行として率いることになった。その時点で20勝33敗とパ・リーグ最下位。最終的に63勝77敗4分けの5位でシーズンを終えたが、借金を減らすことは叶わなかった。もちろん、田邊監督もこの成績に満足しているわけがない。

 今季、攻撃陣はクリーンアップ以外の脇役のバッティングが粗かったですね。三振の記録も作ってしまいましたし(史上最多のチーム1234三振)。クリーンアップの三振が増えてしまうのは仕方ないですけど、ほかの選手が粘ることもなく簡単に三振を喫してしまう。三振にも、例えば相手に10球投げさせた末の内容が伴うモノがありますけど、そうではなくて3、4球であっさりと。脇役の三振が多いと攻撃のリズムにもつながらないし、勢いも失せて、淡泊になってしまう。もう少し粘り強いバッティングを身に付けさせないといけないと思っています。

 ウチには2人の本塁打王がいるわけですから。当然、一発が飛び出れば盛り上がる。ただ、ランナーをためてとか、つないで、つないでクリーンアップに回すという状況が欠けていたように思います。打順によって役割があるのは言わずもがなですが、そこをもう1回、徹底させないといけないと考えていますね。

 投手陣では、開幕から1カ月くらい攻撃陣がなかなか点を取れず先発陣に「抑えないといけない」というプレッシャーがかかり過ぎてしまったし、中継ぎ陣はシーズンを通して枚数が薄かった。やっぱり、Aクラスに入るチームを見ると、中継ぎ陣が強力。序盤で1、2点負けていても、後ろの投手が耐えて点差を広げずにいてくれるから、攻撃陣も奮起して逆転するというパターンが多い。ウチはその逆。中継ぎ陣を充実させることが来年浮上するために必要不可欠であるのは間違いありません。

 そういった意味で外国人投手も補強しましたし(郭俊麟エスメルリング・バスケスミゲル・メヒア)、昨年は二軍担当だった横田(久則)コーチと新しく土肥(義弘)コーチが加わりましたから、大いに期待しています。

 自分の反省点としては、投手の代え時で決断がにぶったこと。そういったときはやられたことが多いんですね。迷って続投させたときは結果が悪かった。だから、迷った時にしっかりと決断して、「お前に任せた」と投手を送り出せるようにならないといけないですね。

 とにかく、試合の中で選手の長所を引き出しながら戦っていきたい。それに、選手には自信を持って打席に、マウンドに立ってもらいたいですね。自信がなさそうにバットを振られると、こっちも寂しくなる。相手に向かっていく気持ちを出してもらいたいですし、例えば当たってでも塁に出るという気迫。そのためには練習なんですよ。練習を重ねれば、それだけの自信はつく。そういった戦う集団をつくりたいですね。

 話を進めて行く中で結論が「練習しかない」に帰結することが非常に多かった。インタビューの最後にも「チャンスに強い、ピンチに強い選手を作りたい」と熱く語ってくれたが、「それにはやっぱり練習しかない」。練習で培われる強さに勝るものはない。田邊監督の信念が、チームにどのような結果をもたらすのか。その挑戦をしっかりと見守っていきたい。


この記事はいかがでしたか?

特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング