文=滝川和臣、写真=佐藤博之 温かかった花巻の地
1位で自分の名前が呼ばれてもマウンドの姿そのままに、ほとんど表情を変えることはなかった。会見がすべて終わり一息ついて安堵の表情。隣に座る豊田圭史監督に肩を叩かれ、ようやく笑顔になった。前日には
西武の
鈴木葉留彦球団本部長が1位指名を公言していても、胸のうちは不安だったのだ。
3年秋から4年春にかけて56イニング連続無失点を記録。4年春のリーグ戦では3完封を含めた6勝をマークし、チームを3季連続の北東北大学リーグ優勝に導いた。しかし、続く大学選手権で
多和田真三郎が神宮のマウンドを踏むことはなかった。
疲労からくる右腕の炎症。ノースロー期間を設けて肩を休ませ、入念に体をメンテナンスした。7月に遠投、8月にブルペンに入り、段階を追って最後の秋に備えてきたが、秋のリーグ戦にも登板することはなかった。スカウトが注目する最後の実戦で投げられなかったことが心に引っ掛かっていたことは、容易に想像できる。
「肩のこともあったので、不安でした。指名していただいて素直にうれしいです」
慣れない会見でマイクに向かう緊張感とプロ入りという夢を叶えた喜びを交えて、そう語った。
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高校で味わった悔しさを胸に富士大に入学。4年間の努力が最高の形で実を結んだ[写真右は富士大・豊田監督]
沖縄の中部商高では県大会の決勝で敗れ、甲子園には届かなかった。「指名されたらいいなあ」とプロ志望届を提出するも、指名はかからなかった・・・
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