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高卒3年目のシーズンにレギュラー獲りを狙う若鯉。昨年は夏を迎えて一軍に必要な戦力となり、主に代打で36試合に出場し、打率は.344と結果を残した。積極的な打撃スタイルは首脳陣の評価も高い。守備、走塁面の穴をなくし、24年ぶりの優勝を目指すチームに、なくてはならない存在となる。
取材・構成=菊池仁志 写真=川口洋邦

標的は「一番・右翼」


 今季の広島の野手陣を眺めると、二番・菊池涼介、三番・丸佳浩の後のクリーンアップに外国人が並ぶラインアップが既定路線としてある。そこでカギとなるのが「一番」の人選。昨季は53試合で一番を打った堂林翔太を筆頭に12人がスターティングメンバーでその役を担った。固定されていない役割をその手につかもうと、鈴木誠也が春季キャンプで必死のアピールを続けている。

今シーズンは外野に専念。松山や野間などライバルは多いが、レギュラー獲りを狙っている



 プロでの2年間、ずっと一軍にいるわけではないですし、実績もないので、今年はとにかくライトの守備位置を獲ることと、固定されていない一番打者を任されるように、結果を出してやっていきたいです。レギュラーとして1年間やることですね。

 ライトには松山(竜平)さんや今年入った野間(峻祥)さんらのライバルがいますが、その競争に入っていくこと。松山さんはバッティング、野間さんは足と秀でたものを持っていますが、僕も2年間やってきたことを出して、負けないようにしたいです。守備、走塁でほかの選手より勝らないといけないと思っているので、そこをしっかり高めたいですね。

 一番打者には走塁力が求められます。昨年は盗塁がゼロでしたが、二軍戦でもアウトになることが多かったんです。今年は緒方(孝市)監督になり、チーム方針もこれまで以上に走ってかき回していくものになると思うので、失敗を怖がらず、どんどん前を狙っていく姿勢は続けて持っていきたいと思います。

 キャンプ、オープン戦ではそこに取り組みたいですね。野間さんは大学のときから経験していますから、どんどんアピールしてくるでしょう。僕は高校までピッチャーで盗塁をする機会がほとんどなかったので、その差はあると思いますが、やっただけ技術も上がると思うので、失敗も多くなると思いますけど、ビビらずにそこから学んでいきたいです。

 ポジションは「今年は外野」だと言われました。肩の強さ、足の速さが生かせる、狙えるポジションなのでやりがいを感じています。将来的にはショートを守りたいという希望は持っていますが、今のところは試合に出ないと話になりません。今年はとにかく、外野一本で勝負です。

 昨年までは外野も内野もやらなければならなかった分、一つに集中できることで、気持ち的にはラクになりました。外野に集中できることをプラスにしていきたいですね。すごく激戦のポジションですけど、競争するチャンスがあるので、そこをモノにしていきたいです。

 一番打者としては長打もあって選球眼もある打者を目指していきたいです。一番はチームに勢いを与える役割が求められます。最初にバッターボックスに立つわけですから、そこで打てなかったとしても、アウトのなり方があります。そういうところでチームに勢いをつけられる打者になりたいですね。

 一番打者の魅力はチームで最初に打席に立つワクワク感。真っさらな打席で自分の足の位置を一発目に決められることも自分にはしっくりきます。試合終盤に代打で出るとき、足場がいろんなところにできていて、それが合わないこともあるんですが、それはイヤなんです。

手玉に取られた感


 昨季の最終戦となった阪神とのクライマックスシリーズ、第2戦に「七番・右翼」でスタメン出場した鈴木誠也は0対0の7回一死満塁の絶好機に打席を迎えた。結果は能見篤史の外に逃げるチェンジアップを引っ掛け、三塁ゴロで本塁封殺。この回、得点を奪えなかったチームは0対0のまま試合を終え、CS敗退が決まった。

 昨年は積極的に行く自分の持ち味を出せたことが打撃成績として表れたと思いますが、チャンスの場面でその積極性が裏目に出たことがありました。それがCSでのその打席で、反省する場面です。シーズン中は、チャンスで打席に入ったときもそれほど打ちたがっていたわけではなく、狙うボールをしっかり持って打席に入れていました。それがあの打席では、力も入って普段と違う心理状態でした。

 意識としては左ピッチャーなんで、外に抜けていく球は捨てようと思っていて、内に入ってくる球に意識付けをしていました。その初球にインコースのストレート。完全にボール球だったのですが、打ちにいきた過ぎて振ってしまったんです。その時点で「ヤバイ」と思ってしまって、次の外の落ちる球に手が出てしまいました。完全に相手に手玉に取られた感がすごく悔しいんです。

 あの場面は外野フライでも1点が入ったのに、そういうことすら考えられずに自分で決めにいってしまいました。低めを捨てて、高めだけ待って、外野フライでよかったんですし、高めがこなくて打ち取られたとしても、次の會澤(翼)さんがいると思えればもっと余裕を持てたはずです。とにかく当てればなんとかなるって入れ込み過ぎました。

 ただ、あの経験はなかなかできるものではありません。シーズンとは違う球場の雰囲気で、負ければ1年が終わるという試合で、ああいう打席に立たせてもらいました。この経験をしっかりと生かして、次は結果を残さないといけないですね。

 昨年はその後、21Uワールドカップに出ましたが、そこでは得点圏に走者がいるときのバッティングを課題として臨みました。ピッチャーのレベルがプロの一軍レベルからは劣るので、評価は難しいところがありますが、「外の球は振らない」など打席での決め事を自分なりに持って、それを徹底できたことはよかったですね。


昨年9月25日のヤクルト戦(神宮)ではプロ初本塁打を先頭打者弾で飾った(投手・石川雅規)。チームを勢いづける一番打者が目標だ(写真=内田孝治)



レギュラー獲りへ


 春季キャンプのフリー打撃。鈴木誠が振り抜くバットから放たれる打球は、これからスターダムに駆け上がろうとする昇り鯉の勢いを感じさせている。入団3年目、チャンスをつかむときが来た。「一番・鈴木誠」の活躍が、24年ぶりのリーグ優勝を目指すチームの活性剤となる。

 成績を意識することはありませんが、自分が結果を出せば、それがチームへの貢献になりますので、しっかり打率を残して、ここぞという場面ではホームランも打点も稼げるようにしていきたいです。ただ、毎打席、毎打席打てるわけではないので、そういうときに守備や走塁でもチームに貢献できるように、すべてでレベルアップが必要です。打つことに関してはまだまだなので、とにかく走塁でかき回すこと、得点を増やすことでチームに貢献できればいいと思います。あとは守備で、走者を刺せる送球の安定性を求めていきたいです。

 去年はその前年よりも結果を残せたんですけど、試合に出させてもらうことによって、ミスも多く出ました。9月(17日)の巨人戦(マツダ広島)では、7対9の8回に先頭で代打に出て、センターの右に長打を打ったんですが、三塁を欲張ってアウトに。2点差あるし、ノーアウトですし、行く必要がまったくない場面での暴走です。あらためて場面に応じた走塁を考える機会になりました。

 ガムシャラにプレーする、とにかく前に向かうことを意識する、去年の僕はそれでいいところがあったかもしれませんが、レギュラーとしてやるためにはもっと勉強して冷静にプレーできるようになる必要があります。チームの状況に応じて、求められることができるプレーヤーになりたいですね。

 いろいろと先輩たちに話を聞いて自分に取り入れられるようになったのが、昨年から。もう少し早く、ちゃんとした考え方を持って学べていれば、これまでの2年、もっと違った結果が残っていたんじゃないかと思います。特に丸さんとは昨年から、試合のないオフの日には、一緒に球場で練習させてもらっていて、いろいろと教わっています。お互いに新井(宏昌)コーチから指導を受けているので、やろうとしている方向性は一緒ですから、僕ができないことをどういう感覚でやっているかを聞いています。当たり前ですけど、自分が思っていた以上に上のレベルで物事を考えていらっしゃるんで、発見が多いんです。

 そういう学びの中で今年は個人的にはレギュラーを獲って1年間、結果を残すこと。そして今まで野球をやってきた中で優勝の経験がないので、何より優勝したいです。その輪の中にいられるように頑張ります。

今シーズンの目標は「レギュラーを獲って、優勝の輪の中にいたいです」と語る



鈴木誠也のアピールポイントベスト3


1)初球からいく積極性
甘い球が来たらどんどん振っていく積極性でチームに勢いを与えたいですね。

2)肩の強さ
1球だけですけど自分が理想とする送球ができたことがあります。それができる可能性を上げていきたいです。

3)ヘッドスライディング
走塁はまだ得意とは言えないですが、足の速さには自信があるので、果敢なスライディングをしていきたいです。

PROFILE
生年月日/1994年8月18日。身長・体重/181cm・87kg。出身地/東京都。球歴(出身校)/小学校2年時に荒川リトルで野球を始め、荒川九中では荒川シニアに所属。二松学舎大付高では1年秋からエース。2年夏はベスト4、3年夏はベスト8で敗退し、甲子園出場はならず。13年ドラフト2位で広島に入団。プロデビュー(一軍)/2013年9月14日巨人戦(マツダ広島)
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