2月になっても“五郎丸ブーム”はいっこうに衰える気配がない。一スポーツ選手がたった1回のパフォーマンスでこれほどまでに日本人の心をトリコにしてしまった例がほかにあるだろうか。筆者の記憶では、1958年の
巨人・
長嶋茂雄以外には思い当たらない。長嶋は58年1シーズンのパフォーマンスで、それまでのどのプロ野球選手をもしのぐ存在になってしまったのだが(そもそもほかの選手との比較が不可能だった。少々手アカがついたが、ハヤリの表現なら異次元プレーヤーとなろうか)、五郎丸にもそれに近いイメージがある。彼の存在が、ラグビー界への見方を根底から変えてしまったのだから。

五郎丸(写真=早浪章弘)は、あの長嶋茂雄を思わせる革命児だ。たった1人ですべてを変えてしまった
こういうことがあるのだから、プロ野球の世界からも五郎丸が飛び出す可能性を信じたい気持ちになる。
イチロー、松井が
オリックス、巨人に入団したのが92、93年。そこから20何年かになる。もう、イチロー、松井クラスの異次元プレーヤーが現れてもいいころなのだが……。「これはなりそうだ!」と期待したプレーヤーは2人とも(
ダルビッシュ有と
田中将大)アメリカに去ってしまうし、
大谷翔平(
日本ハム)は「今年も二刀流でやります」と筆者の夢をつぶすようなことを言っている(打者には大器晩成ということがあるが、投手にはない!)。
五郎丸に戻ると、朝日新聞の読書欄の「思い出す本忘れない本」にさえ登場するほどの人気だ(1月10日付)。五郎丸が語っている本は『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(アービンジャー・インスティチュート著、
大和書房)。五郎丸はこの本のポイントを「置かれた環境で自分の力を100%出し切ったら箱のふたが開くイメージ。箱の外にはもっと広い世界があって、自分にとっての『最悪』なんか大したことない。もっと成長できるし、変わっていける」と押さえる。「読んでから物事をポジティブに捉えられるようになりました」と五郎丸。
まあ、もともと超ポジティブなタイプで、ここでも「周囲からはよくそんなプラス思考でいられるなって言われますよ」と語っているほど。本を読むというのは、新しい世界に導かれるというよりは、自己確認のために読むのだなあ、と感じることはありませんか?筆者などは、しばしばそれを感じる。「太陽の下に新しいものは何もない」だったかな、そんな格言があるが、新しいものに驚いてばかりいるのではなく、何が大事で何がつまらないのかを、しっかり判断できる能力を身につけることが必要なのではないか。箱から脱出したところに真の自分を見つける、これではないのか。
五郎丸の場合、俗に言う“自分探し”とは違う。自分を探し求めた末に、日本人に「そうだ、ラグビーという素晴らしいスポーツがあったじゃないか」と再確認させてしまったところが五郎丸のすごさなのだ。
長嶋さんの場合も「プロの世界で生きるんだ!自分の存在を絶対アピールするんだ!」とやっているうちに、日本人に「プロ野球って、本当に面白いんだなあ」と再確認させたのだった。
さて、プロ野球の現役諸君、筆者は何も必ず長嶋になれ、五郎丸になれ、と言っているワケではない。ただ、自分の最高のパフォーマンスが、ひょっとしたらプロ野球の世界を変えてしまう瞬間があるのかもしれない、これぐらいの気持ちは持ってほしいのだ。大谷君、あなたのことだよ。おかわり君(
西武、
中村剛也内野手)、あなたのことだよ。もう「箱」から脱出する時期ですよ。