プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー第19回は北別府学氏に話をうかがった。広島黄金時代のエースとして、通算213勝をマークした右腕。精密なコントロールとキレ味抜群の変化球を駆使して打者を打ち取る様は野球ファンを魅了した。野球界が熱かった時代を駆け抜けた北別府氏がすべてを語る。 取材・構成=大内隆雄 写真=BBM 江川、山口高、外木場の記憶
高1で対戦した江川は恐ろしかった
今回の北別府氏は、これまで登場の方に比べるとひと世代若い人だ。と言っても、7月には57歳。2012年には野球殿堂入りを果たしているのだから、「若い」イメージはないかもしれない。しかし、取材・構成者などには、「ああ、若い人の登場だなあ」という感慨がある。その18歳の初々しいマウンドをもう記者席から見ていたのだから、やっぱりこの人は「若い人」なのである。
北別府氏のライバルたちと言えば、投手では江川卓、西本聖、槙原寛己、桑田真澄(いずれも巨人)といった人たち。この強力G投相手に巨人通算30勝(33敗)なのだから、その力のほどが分かる。他チームにも小松辰雄(中日)、遠藤一彦(大洋)といった好投手がいた。
打者では、外国人勢がすごかった。北別府氏がMVPとなった86年のセ・リーグは、打撃10傑の上から4人はすべて外国人選手。バース(阪神)、クロマティ(巨人)、ポンセ(大洋)、レオン(ヤクルト)だ。4人の本塁打合計が145本。打点合計が409。団塊世代前後の打者たちが衰え、外国人大砲に頼る時代になっていた。そんな中で、広島は外国人打者に頼ることなく、この年、巨人との激烈な競り合いを制して5度目のV達成。 このシーズンを語る前に、江川さんの思い出を少し話しましょうか。私は高1のとき、宮崎で江川さん(作新学院高3年)と対戦したことがあるんです。その速さたるや、投げた瞬間ミットに入っているという感じで恐ろしいスピードでした。投球練習のときからお客さんから1球ごとに「ウオーッ」という声が上がるんですから。打席に立ったら「こんなの打てるワケがない」とアキレました。でも、プロで見た江川さんは、もうそう速くはなかった。ボールが見えましたから(笑)。ただ、スピンのかかったいいボールなのでバッターは、詰まってしまうのでしょうね。
速いと言えば、阪急の
山口高志さんは群を抜いて速かった。入団してオープン戦で見たのですが、この人のボールは、よく見えてタイミングが取れたから打てる、といったボールじゃないんですね。理屈どおりにならん球なんです。たまたま当たった、というバッティングにしかならない。
変化球ではウチの外木場さん(義郎投手)のカーブには驚きました。タテに大きくグググッと曲がるんですが、球速もある。いま、あんなカーブを投げる投手はいません。だから、速球とカーブだけで抑えられたんです。ああいうタテのカーブは打者は距離感がつかめないんです。左右どちらかに曲がれば、目は追えるんですが、真っすぐストーンは、難しい。
優勝してMVPとなった86年は何もかもうまくいったシーズン

86年10月12日、優勝祝賀会でビールを浴びせられる
投手というのは、自分でも信じられないほど、何もかもすべてうまくいくというシーズンがあるんですよね。86年がそうでした・・・
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