遥か先にあって、形すらおぼろげなゴールを目指し、休むことなく走り続けてきた。「42.195㎞を走ろうとするのはすごくつらいけど、『次の電柱まで』って思いながら、それを何百回か繰り返せば、多分、ゴールできる」。安打が出た、イメージどおりの守りができた、得点につながる走塁ができた、一つひとつは小さな成功体験かもしれない。でもそれが次の自分を目指す動機となった。昨日の自分を超える毎日の積み重ねが理想とする“木村昇吾像”に近づける。
「打って、走って、守れる。笑われるかもしれないけど、パーフェクトなプレーヤーになりたい、なれるって思って毎日を過ごしているんです」。今年、プロ入りして12年目、34歳になった。しかし、技術的にはゴールまでの中間点を過ぎたばかり。
「自分がやりたいとイメージするプレーに、やっと体が伴ってきたところ。これからどんどん良くなってくる感触があるんです」。その目には理想像の輪郭がはっきりと見えている。 本職はショート
9月に入り、2014年シーズンも残り30試合を切った。
巨人、
阪神、
広島のデッドヒートはこれから正念場を迎える。
23年ぶりの優勝を目指す広島は、
野村謙二郎監督が「状態の良い者から優先して使っていく」と、開幕前に宣言したとおりの戦いで、何とか優勝戦線に食らいついてきた。固定されているのは二番二塁・
菊池涼介と三番中堅・
丸佳浩のみで、日替わりのスターティングメンバーはすっかりお馴染み。同じオーダーで戦うのは2試合連続が最長だ。
そんな戦いをせざるを得ないチームだからこそ、木村昇吾の存在は貴重だ。内野の全ポジションを一定水準よりかなり高いレベルでこなせる上に、外野の経験も持ち合わせ、走塁レベルも高い。打っては打率.289の結果を残す(8月28日現在)。今季も常に一軍に帯同し、先発出場もあれば、守備固め、代走、代打……さまざまな立場で存在感を放ってきた。
しかし、自身は「僕の中では別格」というほど遊撃守備への強い思いを持つ。
「僕の守備はショートで作ってきたものです。捕球から送球に至るまでのトータルをイメージして足を運んでベストなバウンドで捕球する。それがサードだととにかく捕る、体に当ててでも止めるってなる。距離がないからイメージするバウンドで捕れないんです。そんなとき『あれ、俺ヘタになったんちゃうかな』って。セカンドを守ってても、何かショートのサポート役っていう気がして。やっぱりショートなんです」 試合前練習のノックも必ずショートの守備位置から受け始める。本職はあくまで「ショート」だ。ただ、複数ポジションをこなせるがゆえ、ユーティリティーの肩書きを背負うこととなった。
汎用が利くのは他人にない長所。だがそれは、逆に出場機会を減らす要因にもなる。役割を限定しないプレーヤーだけに、手駒として温存しておきたいのは、兵を動かす将の共通の心理だ。
「僕が起用する立場なら、僕のような存在の重要性について、同じように考えるかもしれない。ただ、それはそれ。プレーヤーとしては試合の最初から出たい」 そこに葛藤はもちろん、ある・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン