プロ野球では「ストライクゾーンが広くなった」という声が噴出している。日本野球機構(NPB)は公式には認めていないが、選手をはじめ監督、コーチらユニフォーム組の多くが「明らかに広くなっている」と証言。あるパ・リーグ球団の主力キャッチャーは、「審判によっては、内外角にボール1個半くらい広がっている」と説明する。某セ・リーグ球団の打撃コーチは、「バットが届かないところまでストライクと
コールされる。狙い球や作戦を仕掛けるタイミングなど、戦略が昨年までとは違うものが求められてくる」と、混乱ぶりが伝わっている。
その影響を示すデータが、打撃陣の苦闘ぶりだ。交流戦終了の6月16日時点でセ、パ両リーグのチーム打率トップは
中日の.262、
ソフトバンクの.271。昨年のセ、パのトップは
ヤクルトの.279、ソフトバンクの.280だったことを考えれば、打撃低迷ぶりは明らかだ。ちなみに最下位を見ても、
DeNAの.253から
阪神の.229、
西武の.248から
楽天の.243と、セ・リーグに関しては2分以上のダウンとなっている。
今シーズンの試合中、球審のストライクの判定に対し、あからさまな不満な表情を見せる打者が多くなった。特に、昨年まで選球眼に定評のあった選手にその傾向が強い。バッテリーとの駆け引きにこだわらない「イケイケタイプ」は、それほど苦にしていないようだ。ストライクゾーンの“変化”にアレルギーを持っているか、それとも「仕方ない」として受け入れて積極的に対応しているか、チーム全体の考え方も成績に反映している。
ストライクゾーン拡大を引き起こしている原因として指摘されているのが、今年から球界で大々的に推進している「スピードアップ」だ。メジャー・リーグ機構(MLB)にならい、日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーが提唱。実際、セ、パ両リーグの球団関係者が参加するオペレーション委員会では、スピードアップ方策として「際どいボールは積極的にストライクを取るべき」という話が出ている。
要はこれまで以上にルールどおりのストライク判定を徹底しようということだが、現場では「ストライクゾーンが広がった」と受け止めているようだ。試合の時短のためには、ゾーンの拡大が最も有効であることは確かだ。投手はシビアでなくなったコントロールを武器にテンポが早まり、打者は追い込まれないよう早打ち気味となる。「投高打低」のシーズンは、個々の打者や貧打ぶりが顕著になったチームにしてみればたまったものではない。しかし、長い目で見れば球界にとっては悪いことばかりではない。

ストライクゾーンが広くなったと言われるが、ソフトバンクの柳田悠岐のように昨年より成績を伸ばしている選手もいる。各打者が克服することに期待したい[写真=湯浅芳昭]
一昔前にはラッキーゾーンが廃止されたのをはじめ、フェンスが高くなるなど球場の拡大ラッシュがあった。当初こそ低迷した打撃陣だが、次第に適応。最近では、2011年から導入された「飛ばない」統一球のケースがある。打撃陣は打法等の研鑽に明け暮れながら、2年前のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で証明したように、メジャーの選手が舌を巻くような打球を飛ばすようになった。今こそプロ野球の醍醐味でもある、意地とプライドを懸けたプレーの見せ所だ。受難の後には、必ず技術進歩がある。