選手、監督・コーチだけでは成り立たないキャンプ。本拠地を離れて鍛錬を積む1カ月の長丁場を支えるスタッフがいる。あらゆる側面からキャンプに携わる人々の仕事の一端を紹介しよう。 打撃投手 ロッテ・池田重喜さん

球界最年長の打撃投手である池田氏。70歳になる今年もキャンプでは3000球を投げる[写真提供=千葉ロッテ球団]
期間中の球数は3000。「たいした数じゃないですよ」 寒風吹きすさぶロッテの二軍球場・ロッテ浦和で、ゴールデンルーキーの
平沢大河がフリー打撃を行っている。対するマウンドに立っていたのは、平沢より50歳以上年長の
池田重喜打撃投手(兼寮長)。今年5月に70歳の誕生日を迎える“球界最年長打撃投手”だ。
池田氏は津久見高、日鉱佐賀関を経て1968年にドラフト4位で大洋(現
DeNA)に入団。71年にロッテに移籍したが、右肩を故障し76年からは投手コーチ兼任となり、77年に引退した。翌78年から97年までロッテで二軍投手コーチ補佐やトレーニングコーチ、00年からは寮長を務めながらトレーニングコーチや育成コーチも歴任した。
現役時代も含めれば40年以上、春季キャンプに参加している同氏はもちろん、今年も沖縄県石垣島でその右腕を振るつもりだ。
「朝は6時くらいに起きて、ベッドの上でゆっくり体操をします。そうしないと体が元に戻らないんですよね。かれこれ40〜50分するとしゃんとするので、それから選手と合流して散歩をします。それが自分のサイクルですね。これはシーズン中もずっと変わりません」
早出特打には参加しないため、宿舎の出発は9時半ごろ。球場で練習メニューと自分が投げる順番を確認すると、時間が来るまで敷地内を歩いて体を温める。だが、それは「自分の趣味みたいなもの」と笑う。
「投げようと思ったら、20球くらいキャッチボールをすれば投げられますよ。むしろ選手の昼食後、13時半くらいに投げる場合だと、もう1万4000〜5000歩くらい歩いてしまい、投げる前から疲れてしまうときがある。だから、投げる前は1万歩までですね」
腕につけた歩数計のカウントを目安に調整し、いざマウンドへ。1度の登板で、15分間なら110球程度、20分間なら130球程度。平均すれば1日120球前後を投じるそうだ。
「キャンプ全体では3000球くらいなので、たいした球数ではないですよ。また、自分が投げないときには球拾いに参加します。近ごろは注意しないと、ちょっと目を離してしまうと打球が飛んできて危ない。だから外野の後ろのほうにいるようにして気を付けています」
練習後は宿舎に戻って夕食を取る。選手、コーチが行うミーティングには参加しないため、読書などで体を休め、22時ごろには就寝する。
「キャンプはすごく睡眠を取れるんですよ。寮だと23時に風呂のボイラーを消すので、それまでは起きていないといけない。それでいて横須賀に遠征に行くようなときは5時起きですから」
何でもないように笑うが、年齢を考えれば驚くべきバイタリティーだ。その力の源は何なのだろうか。
「肩を壊して自分の野球生命が終わったから、投げたいときに投げられなかった悔しさがあるのかな。なんて言ったらいいのかは分からないけど……まあ、投げるのが好きなんでしょうね。70歳と年齢を言われることがあるけど、投げられるのならば歳は関係ないということ。投げられるから投げているだけです」
きっぱりと口にした池田氏。「必要とされなくなったら身を引きます」と語ったが、その経験は、まだまだロッテには必要だ。(文=吉見淳司)
ブルペン捕手 広島・長田勝さん

捕球音と実際の言葉で会話を交わしながら投手をもり立てる
シーズンを控えた投手への気遣い。「秋と春で掛ける言葉が違う」 広島キャンプの朝は早い。ブルペン捕手の1日は捕手の早出特守の手伝いから始まる。ボールの準備や練習相手、とんぼがけに勤しむ。全体練習が始まれば、投球練習に備えブルペンを整えながら投手陣を待つ。
春季キャンプは初日から参加投手がほぼ全員ブルペン入りするのが慣例だ。入れ代わり立ち代わり球を受け続ける。レガースに着けたカウンターで投球数を数えながら。単調にただ受けるだけでなく、言葉のキャッチボールも交わす。
「秋と春では掛ける言葉が違ってくる。やはり春は選手を選びながら、言葉を選びながら声を掛けるようにしています」
シーズンを目前に控えた緊張感がブルペンに走る。投手によって調子も立場も、性格も異なる。どうすれば球を受ける投手をいい方向へ導けるか、ベストの方法を探っている。
そして投球練習が終われば、意外にも空き時間・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン