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第70回 未来のメディア戦略――重要なのは幅広い年代層の心にどう訴えるか

 

 待ちに待ったプロ野球セ・パ両リーグの2015年シーズンが3月27日、各球場で開幕した。メジャー・リーグから古巣・広島へ復帰した黒田博樹、球界を背負う若きエースの日本ハム大谷翔平阪神藤浪晋太郎、新監督としてチームの指揮を執るソフトバンク工藤公康、広島・緒方孝市楽天大久保博元ヤクルト真中満西武・田邉徳雄─ら、今年もさまざまな話題が各メディアをにぎわせている。

 選手や球団関係者、各種メディアなど、プロスポーツを生業にしている者にとって、露出は大事な仕事だ。ファンは誰でも、選手の単なる数字やデータだけにとどまらず、体調面や精神面などの状態、コメントなど、サイドストーリーが知りたい。それらを材料にして特定選手の“生き様”に共鳴し、自己の姿を投影することで、熱狂的な支持者となる。だからこそ中身が濃く、上っ面のエピソードではない、よりたくさんの情報が必要。恒常的で幅広いメディア戦略を絡めた露出がプロ野球全体の人気につながることを、どれだけ関係者がしっかりと意識しているかどうかに懸かっている。

3月10、11日に行われた侍ジャパンの欧州代表戦はネット中継された[写真=高塩隆]



 グローバルな人気を誇るサッカーは、インターネットによる情報発信がほかのスポーツよりも進んでいる。スマートフォンやタブレット等の携帯端末の急速な普及も手伝い、より手軽に国内外の詳細情報の入手が可能。新時代のメディアは、昔からのファンばかりではなく、新たな若いファンの開拓に一役買っている。

 一方、日本で独自の発展を遂げてきたプロ野球人気は、今もテレビ、新聞、雑誌など、従来メディアに頼る部分が大きい。長年サッカー報道に携わってきたあるベテランライターは、「野球とサッカーでは、年齢や性別などファン層が異なる」と指摘。その原因となっているのが、メディアの違いだという。プロ野球の扱いがメーンとなりがちなスポーツ新聞などの定期的な読者は、40代以上の男性が圧倒的に多い。対して、サッカーは、女性を含めた10代からの幅広い年齢層がネットを主な情報源としている。

 これはある意味、プロ野球の明るいばかりではない未来を象徴している。現在のプロ野球を支えているのは財力に余裕のある高年齢層。だが、それも時代が進むと状況も変わりそうで、後に続く若年層の支持具合は未知数だ。近い将来に人気が先細りするという不安はぬぐい切れない。

 試行錯誤で発展した従来メディアの利点は多い。しかし、それに固執していては、流れに対応できない。最近はテレビ、新聞、雑誌もネットに力を入れるなど、情報発信を模索している。ネットは掲載の敷居が比較的低いこともあり、信憑性の確保が困難。今後の課題も多いだけに、万能の利器ではない。要は手段ではなく、幅広い年代層の心にどう訴えるかだ。従来メディアの蓄積を踏まえ、これまでとは違う内容のコンテンツも必要となってくる。そのためには、選手、球団がこれまでの人気にあぐらをかくことなく、情報発信に協力する姿勢が必要だ。

 日本野球機構(NPB)が今年から本格的に立ち上げた株式会社、NPBエンタープライズでは、日本代表「侍ジャパン」ビジネスを柱に、新たなファンの拡大も目指している。関係者は「昔からの熱狂的なファンのニーズに応えるのはもちろんだが、それ以外の若い層を中心とした『カジュアル・ファン』の獲得も目指している」と説明。有効なコンテンツの一つとして期待しているのが、国際試合やそれにまつわる各種情報のネット配信だ。新たな試みに注目したい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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