阪神タイガースの現在の正捕手は?すぐには答えられないはずだ。ここ数年その存在はいない。今年3年目を迎える梅野隆太郎が、一番近い存在であることは、誰よりも梅野本人が分かっている。「正捕手になること」は自分への至上命令。そのために、昨年経験した失敗を成功に結び付ける。 取材・構成=椎屋博幸、写真=BBM 忘れられないCS、投手に打たれた先制点
正解を求め過ぎると深みにはまる。セオリーどおりだと打たれることもある。リードを託される捕手は、常にさまざまな場所にアンテナを張りながら、打者を抑えるためのサインを出す。試合の中でも2度と同じプレーは起こらないだけに、配球には明確な答えがない。そこから「勝つ」という正解を導くには、先を読み、かつ目の前の1球に細心の注意を払うしかないのだ。
梅野隆太郎には忘れられないシーンがある。昨年10月10日。クライマックスシリーズファーストステージ第1戦、東京ドームでの
巨人戦。先発は
藤浪晋太郎。シーズン途中から藤浪はベテラン・
鶴岡一成とバッテリーを組み、14勝7敗の好成績を残した。だが、
和田豊監督はこの大一番で、スタメンマスクに梅野を抜てきした。退任を決めた監督が、阪神の未来を託した起用だった。
その期待に応え4回まで巨人打線を無失点に抑える。しかし阪神打線も巨人の先発
マイコラスをとらえきれない。迎えた5回。七番・
井端弘和にしぶとく右翼前にヒットを打たれた後、八番の
小林誠司に送りバントを決められ、一死二塁を作られた。そして九番・投手のマイコラス。藤浪の力からすれば抑えて当然の状況だった。
「マイコラスに打たれ(右中間二塁打)先制点を与えてしまいました。試合の流れの中で、あの場面はしっかり抑えないといけない。気負わず、焦らずやればよかったと反省しました。余計な失点を避けられる場面で避けられないと、流れが相手に行き試合に勝つことはできないことをあらためて知ることになりました(試合は2対3でサヨナラ負け)」 
2015年10月10日のCSファーストでマイコラスに先制二塁打を打たれ、試合の流れを巨人に渡してしまった。悔いが残る試合となった
プロ2年目の昨年は、開幕戦からスタメンマスクをかぶった。チームは
中日相手に開幕3連勝を飾り、幸先の良いスタート。その後も首脳陣は梅野を正捕手に育て上げるプランで使い続けた。
できるなら「勝ちながら育てる」が理想。当初は和田監督も「全部出るくらいの気持ちでやってほしい」と辛抱強く使うはずだった。強力な打線があれば、多少打たれても取り返してくれる。先発には
メッセンジャー、
能見篤史、藤浪晋太郎、
岩田稔というリーグを代表する顔ぶれがそろい、彼らの球を受けることで梅野が成長していくというプランを立てていた。
だが、開幕直後から打線が低調で、先発陣の調子も上がってこない。その中で、2年目の梅野が結果を残すのは至難の業だった。開幕8試合目からは6連敗を喫し、首位争いから一気に最下位へと転落。思いもしなかった事態となった。阪神というチームには「勝つこと」が求められており、負けながら若手を育てるということはできない。和田監督は方向転換を迫られた。
1点を怖がったため点を与え過ぎた

昨年、正捕手まで手が届かなかったが多くの経験を得た。その経験を生かしたリードを金本監督の下で発揮する
開幕から13試合連続でマスクをかぶったが、そこからは責任を取る形で出場機会は激減。ベテランの
藤井彰人と鶴岡が交互にマスクを被り、梅野は第3捕手としてベンチに座ることが多くなった。
そして5月24日、2年目で初めて出場選手登録を外され、二軍での生活を経験することになる・・・
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