週刊ベースボールONLINE

山崎夏生のルール教室

送球ラインで当たってボールは転々。日本ではナッシングにならないことも/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

  0

マチャドの走塁への判定に抗議した遊撃手のミゲル・ロハス。危険性も伴うだけに送球ライン上に入る走塁はルールになくとも推奨できない


【問】ナ・リーグ地区シリーズ第3戦での走塁についてお尋ねします。2回裏の先頭打者だったマチャド選手(パドレス)は中前打で出塁しました。次打者の放った一塁手前へのゴロで二塁へ向かう際、大きくマウンド側の芝生方向に進路を変え、打球を処理した一塁手から二塁への送球が頭部付近に当たったのです。その結果、悪送球となりチャンスは大きく広がり、この回に一挙6点を奪いました。この走塁は守備妨害にならないのでしょうか? ロバーツ監督(ドジャース)はチャレンジ(リプレイ検証)はおろか、抗議すらしませんでした。今夏の高校野球のとある県の決勝戦では同じような走塁があり、守備妨害を宣告されていましたが?

【答】この走塁については賛否両論がありましたね。頭脳的なのかダーティーなのか、これは日米の、そしてプロアマの野球観の違いにもつながります。ただ、あくまでも私見ですが、私はこのプレーは守備妨害だと判断しました。その根拠は、通常ならば向かうべき塁へ最短の走りをするのに、あえて内野側に大きくふくらむことに故意性を感じたからです。よって6.01.a(10)の「走者が打球を処理しようとしている野手を避けなかったか、あるいは送球を故意に妨げた場合」を適用します。

 とはいえ、走者は次塁へ向かうのに最短ルートをとらねばならない、というルールはありません。もちろん大きく両手を上げたり、後ろを振り向いて送球に当たりに行くような行為があれば守備妨害となりますが、送球に当たるリスクを覚悟して送球ラインに入るのはナッシングだ、というのがMLBの解釈です。ましてやワールド・シリーズへの決戦の場であれば勇敢なプレーだと称えられもします。

 ただし、この走塁の故意性をどう判断するかは審判に委ねられます。いかにMLBの凡例だとしても、それを日本球界でも適用するのはいかがなものかと。前述したように送球ラインにあえて入るのは不自然なプレーであり、また大きな危険性も伴います。実際に打球や死球のみならず、送球が頭部に当たったゆえの死亡事故も過去にあるのです。この走塁がルールに抵触しないと指導者が教え、その結果の事故の痛みは選手が負うだけです。特にアマチュア野球界では厳しく取り締まるべき走塁だと思いました。

 余談ですが、30年ほど前だったか、ある外国人選手が一死一塁からレフトライナーで飛び出しました。で、帰塁する際に大きくマウンド方向に切り込み、その送球が背中に当たったので守備妨害を宣告。当該選手とバレンタイン監督(当時・ロッテ)に「なぜだ?」と猛抗議されたことがありましたね。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。

この記事はいかがでしたか?

よく分かる!ルール教室

よく分かる!ルール教室

元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

関連情報

みんなのコメント 0

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング