
まさかのア・リーグ東地区の最下位のヤンキース。キャッシュマンGMはファンやメディアから批判を受けているが、このオフ、体制を立て直し、巻き返しを図る
ヤンキースは8月23日のナショナルズ戦で
アーロン・ジャッジがキャリア初の1試合3本塁打を放ち9対1の勝利、連敗を「9」で止めた。
それでもア・リーグ東地区の最下位は変わらず、ワイルドカードの3つ目のスポットまで9.5ゲーム差。残り試合はあと36試合でポストシーズン進出の可能性はほぼなくなっている。
その試合前に会見に臨んだブライアン・キャッシュマンGMは「悲惨なシーズンだし、誰もこうなるとは予測していなかった。恥ずかしく思っている」と首を振った。オフにジャッジやカルロス・ロドンと大型契約を結んだこともあり、開幕時は優勝候補に挙がっていたのにこの不振。ヤンキー・スタジアムでは、最近一部ファンの間から「キャッシュマンをクビにしろ」の合唱が起きている。
56歳のベテランは就任から25年で負け越しは一度もなし、4度の世界一を成し遂げた。ヤンキースはその前も含めると30年連続勝ち越しである。これは1926年から64年の同球団による39年連続に次ぐものすごい記録だ。
この数字を見ても明らかに辞める必要はないのだが、常勝球団ゆえ、メディアもファンも期待値が高い。2009年の世界一を最後に14年連続でワールド・シリーズに出ていないことが不満なのだ。
「このオフ、チームを立て直さねばならないが、あなたはその役割に値するのか」と記者に聞かれると、キャッシュマンは「これまで長い間成功を続けてきたが、このスポーツは簡単ではないし、保証されているものは何もない。状況打開のために私はなんでもする」ときっぱり返事している。
なぜダメだったのか。スポーツ・イラストレイテッド誌のトム・ベデューチ記者は今季からMLBで新ルールが導入されたが、それにうまく適応できなかったとしている。攻撃では盗塁などベースランニングがより重要になり、守備でもシフト制限で、野手は守備範囲の広さが求められる。スピードがカギなのだが、ヤンキースは30代のベテランばかりだ。
17年のナ・リーグMVP、巨漢の
ジャンカルロ・スタントンは打率.199で三振が多い。両リーグで首位打者に輝いたDJ・ラ
メイヒューも今季は.240で、出塁率.315と衰えが目立つ。一方で若手は伸び悩み、新人王にと期待されたアンソニー・ボルピー遊撃手は低めの真っすぐしか打てず打率.217だ。
平均のスプリントスピードで比較すると、メッツ、ホワイトソックスと並び、30球団で最も遅いほうだった。とはいえ同情するのは、ルールが変わったからといって、急に選手を入れ替えられないということだ。オリオールズ、レッズ、ダイヤモンドバックスなどは再建過程で身体能力の高い若手に入れ替えていたのだが、それが新ルールにマッチし、今季は大躍進を遂げた。
百戦錬磨のキャッシュマンなら、チーム作りを一から見直し、このオフから迅速に動き出すだろう。「野球運営部門の上から下まで見直し、どこに問題があったかを見つけ出したい。育成部門、アナリティック部門、パフォーマンスサイ
エンス部門など再検討する」と言う。いかに新たな勝利の方程式を導いていくか、興味深い。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images