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名将たちの栄光と屈辱のドラマ

日本シリーズ7試合の天国と地獄

 

日本シリーズには数々の名将が登場してきたが、ここでは水原茂三原脩上田利治古葉竹識の4監督を取り上げたい。その理由を述べれば、まず川上哲治西本幸雄森祇晶の3監督については、今週号で堀内恒夫、佐野正幸、伊原春樹の各氏がお書きになるだろうから、それ以外の人たちから選んだ。選ぶにあたっては、日本シリーズを3回以上制覇。さらにシリーズで敗将にもなっているという条件を設定してみた。シリーズの光と影、両方を知る人が望ましいからだ。この条件に当てはまるのは先の4人だが鶴岡一人監督については、ライバルとして登場してもらうことにした。

文=大内隆雄 写真=BBM

水原茂(元巨人、東映)
出場=51〜53、55〜59、62年
日本一=51〜53、55、62年




豊富な手駒で鶴岡南海を圧倒
62年の土橋の起用法は見事


 1949年にシベリア抑留から帰国した水原は、翌50年、巨人監督に就任した。この年はセ・パ2リーグに分立した年で、巨人は新興の各チームに選手を供給する“度量”を見せざるを得ない立場だった。ペナントレースがスタートした36年から生え抜きである白石敏男広島に。49年に19勝した川崎徳次を西鉄に。助監督兼任だったが、初代三冠王の中島治康を大洋にといった具合。この影響は大きく(特に精神面で)、50年、巨人は3位ではあったが、首位・松竹に20・5ゲーム差をつけられる惨敗だった。

 水原は51年、「巨人は強くなければならない」と巨人魂を選手にたたき込み、「プライドを取り戻せ!」と叱咤した。これが効いて川上哲治、千葉茂青田昇別所毅彦らが奮起。与那嶺要の加入も大きく、51年は2位に18ゲーム差をつけるぶっちぎりのV。この勢いが、日本シリーズで南海を3年連続撃破することになる。51年は4勝1敗。1、2戦は連続完封。水原は大阪球場での第1戦、ニューボールをどんどん出してフリー打撃で気持ち良く打たせ、南海の選手はポンポン外野席に飛び込む打球を見て恐れをなしたという。水原は南海の“Gコンプレックス”を利用して3連覇したと言ってよい。

▲52年の日本シリーズに臨む巨人・水原(写真右)と南海・山本(鶴岡)の両監督。2年連続で巨人が南海を撃破した



 しかし、コンプレックス効果が薄れ、巨人の主力選手が高齢化した55年は、そうはいかなかった。4戦目で王手を許し、後がない大ピンチ。しかし、ここから水原は藤尾茂加倉井実らの若手を思い切って投入、一気に3連勝して逆転V。第5戦の初回に飛び出した藤尾の先制3ランが巨人をよみがえらせた。無死一、二塁の場面。水原は「バント? 藤尾を三番に入れた意味がないじゃないか」。“勝負師”の勘が冴えた。

 4たび巨人に屈した南海・鶴岡一人監督は13年後の68年、退任に際して「巨人を倒すことだけを考えて生きてきた」と絞り出すように言った。59年に杉浦忠の快投でリベンジしたのだが、このセリフには55年のチャンスを逸した悔しさがあらためてにじみ出ていたような気がする。

 水原巨人は、56年から日本シリーズで西鉄に3連敗するのだが、ここでは、監督の作戦などではどうにもならない、巨大な存在、稲尾和久が立ちはだかったのだから。水原というバットもボールも持てない存在は限りなく小さくなった。それは、敵将・三原脩にとっても同じことで、この3連覇は、三原のものというより稲尾のものだった。

 水原は61年に東映監督に就任するが、62年にV。日本シリーズでも阪神を4勝2敗1分で破り、7年ぶりに日本一監督となった。このシリーズでは、久しぶりに勝負師としての勘が戻ってきた。エースの土橋正幸を2試合連続で先発させて2敗すると、サッとリリーフに回した。土橋は第3戦に5回を2安打無失点。延長11回を何とか引き分けに持ち込む大きな力となった。

 これで自信を持った土橋は5、6、7戦に10回1/3でわずか1失点、逆転Vの立役者となり、MVPに。「ウチの選手は追いつかれるたびにファイトを燃やしてくれた」と水原は語ったが、選手は、水原を信じてついていったのだった。

三原脩(元西鉄、大洋)
出場=54、56〜58、60年
日本一=56〜58、60年




今日は負けていいで始まった3連覇
“超二流”と秋山で勝った60年


 巨人を追われるように西の果てのチーム、西鉄にたどり着いた三原は、2チームが合併したライオンズ(西鉄クリッパースと西日本パイレーツ)を一つのチームにまとめるために、2年目の52年のシーズン途中に大スター・大下弘を東急から奪うようにして入団させた。大下に文句を言える者はいない。巨人監督時代の主力選手・川崎徳次との二本柱でチームをシャキッとさせた・・・

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