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これが19歳のスイングなのか──。昨年までは金属バットを握っていた高校生が、バットの違いなどものともせず、強烈なオーラを放っている。今年も夏の甲子園を制した大阪桐蔭高の西谷浩一監督は「これまで指導者として見てきた中で、とらえる能力ではNo.1」と太鼓判を押したが、早くもその才能をプロの世界でも証明した。いま、もっとも魅せる打者、森友哉。現在の手応え、そして課題などを聞いた。
取材・構成=田辺由紀子 写真=大泉謙也、内田孝治

ただ思い切りやるだけ


 高卒ルーキーとは思えないバッティングで、一躍、プロ野球後半戦の主役の一人となっている。 一軍初出場初打席でプロ初安打を記録すると、極めつけは高卒新人では46年ぶりという3試合連続本塁打。入団直後から「バッティングはすぐにでも一軍で通用する」と首脳陣からのお墨付きをもらっていたが、まさにその見立てどおりのバッティングを見せた。

 8月14日のオリックス戦(西武ドーム)での初本塁打は、外角の直球を流して左翼席へと運び、続く2号はボール気味の速球を思い切りよく振り抜いて右中間スタンドへ。そして3号は、「真っすぐだけに合わせて思い切りいった」と、もっとも深いバックスクリーンへたたき込んだ。このバッティングに田辺徳雄監督代行も、「高卒新人であれだけの対応をするのは見たことない」と舌を巻く。

 当初は、「楽な場面での代打」と限定的な起用を明言してきた田辺監督代行だが、積極的に使わざるを得ないといったところだろう。果たして森自身は、ここまでの活躍を、どうとらえているのか。

──7月27日に出場選手登録され、1カ月以上が経ちました。一軍での生活には慣れましたか?

 はい。一軍に来てすぐは、レベル自体も全然違いますし、チームの雰囲気っていうのもファームとはまた違っていましたから、そういった部分で少し慣れるのが大変でしたけど、今は大丈夫です。もう慣れました。

──オールスター休みの7月19日、20日に一軍の全体練習に初参加しましたが、そのときは一軍で「やれる」という感触はありましたか。

 全然できなかったんですけど……はい。でも、もう一生懸命やるだけだったんで。

──これまで(9月5日現在)21試合に一軍出場して、何か手応えを感じているような部分というのは?

 キャッチャーとしては、まだ全然なんですけど、バッティングで手応え……というより、しっかり自分のスイングができているかなと思います。

──では、まずはバッティングについてうかがいましょうか。7月30日のオリックス戦(ほっと神戸)での初打席で初ヒット、8月14日からの3試合連続のホームランもありました。うまくいっている要因というのは分析できていますか。

 それは分かんないですけど(笑)。コーチや周りの方には「特に何も考えずに行って来い」っていうふうに言われているので、それがうまくいっているんじゃないですかね。

──当初から、ご自身でも「チャンスは多くはないと思うけど、思い切ってやっていきたい」ということをおっしゃっていましたね。実際に打席に向かう前は、どんなことを考えているのでしょう?

 特にないですね。とにかく、「絶対、打ってやろう」という気持ちだけです。

──バッティングに関して「プロでやっていける」と思えた打席などはありましたか。

 それも特にないです。

──あれだけホームランを連発しても?

 はい。

──では、これまで打った中で理想的な1本というのは?

 理想って言えば、やっぱり1本目のホームランは理想かなと思います。アウトコースの球を逆方向にうまく打てたので。それは、取り組んできたことが結果になったかなと思います。

自身でも納得のバッティングだったという8月14日のオリックス戦(西武ドーム)でのプロ初本塁打。外角直球をうまく流してレフトスタンドへ運んだ技ありの1本だった



キャッチャーとして


捕手・森については「まだまだ、すべての面でやることが多い」と袴田ヘッドコーチ



 新人離れしたバッティングの一方で、苦労しているのが守備だ。キャッチャーという経験値が大きくモノを言うポジションで、ルーキーは悪戦苦闘を重ねている。大阪桐蔭高では2年生にして1学年上の藤浪晋太郎(現阪神)とバッテリーを組んで甲子園春夏制覇を果たし、18U日本代表の正捕手も務めたが、プロでは技術面、リード面での未熟さを自身で痛感しているという。

 ファームで実戦経験を積み、試合後には居残り練習で技術面を鍛えてきたが、「まだまだ、すべての面でやることが多い」と一軍でのプレーを評価するのは袴田ヘッドコーチ。ただ、勝利が求められる緊張感の中で試合に出場することで、ファームでは得られない経験をしていることも確かだろう。

「ゲームに出て感じることもあるだろうし、炭谷(銀仁朗)の姿を見ることで勉強することも多い。8月29日に(菊池)雄星と組んだときには、リード面でいろいろ考えていることを感じられたし、少しずつ落ち着いてできてきている」と、その成長についても語っている。

自身が感じる課題、そして捕手へのこだわりとは。

「一軍の雰囲気にも慣れてきました」と言うとおり、練習中もリラックスした表情。8年前、自身も高卒新人捕手として開幕スタメンを果たした炭谷も笑顔で後輩を見守る



──プロに入って、ここまで力を入れて取り組んできたことは、どんなことですか。

 主にキャッチャーとしての技術的なことです。捕球であったり、キャッチングであったり、ブロッキング、スローイング。ファームでは、本当にそういったことを取り組んでいました。

──自分の中で成長を感じられている?

 高校時代に比べれば、そうですね。良くはなっているんじゃないかなと思います。

──一軍に呼ばれたときというのは、やはりキャッチャーとして通用するのかなという不安は……。

 やっぱり、ありましたよね。うーん、ただ通用するのかどうかは別にして、まだまだ若い……というかルーキーなんで、思い切ってやろうというふうには思っていましたし、今も、その思いは変わらないです。

──8月29日のオリックス戦で菊池雄星投手とバッテリーを組んで、本拠地・西武ドームでの先発デビューもありました。緊張はしましたか。

 はい。緊張はしましたね。

──どんなふうにリードしようと思っていたんでしょう?

 バッテリーミーティングで、いろいろな話があったので、まずはそれに従ってリードしていくという感じでしたね。

──前日には「自分が引っ張るくらいの気持ちで」とおっしゃっていたと思うんですけど。そこは思いどおりに?

 うーん……できてはないと思うんですけど、まあ、自分なりに考えてリードはできたと思います。

──先発マスクは8月1日の楽天戦以来でした。そのときの経験などを踏まえて、特に意識したことなどはありましたか?

 そうですね。冷静さというのが大事になってくるので、ピンチになったときでも、とにかく冷静にリードしていこうというのを考えていました。やっぱり、ランナーを出してからのリード面というところで、焦りだったり、勝負を早まってしまったりとかがあったので。

──では、その反省を踏まえて……。

 まあ、うまくいったかどうかは分かんないですけど、なんとか最少失点には抑えられたんじゃないかなと思います。

──4回には安達選手の二盗を素晴らしい送球で刺して、菊池投手を助けました。落ち着いて見えましたし、あれも自信につながったのでは?

 うーん、自信になったというよりかは、1つ刺せたんで、少しほっとはしましたね。

8月29日には菊池雄星とバッテリーを組んで、強気なリード、先制タイムリーと攻守で勝利を演出。菊池は6月14日以来となる約2カ月半ぶりの勝利で、「森様々です」と感謝した



──やはり先発マスクとなると、代打から出場してマスクをかぶる場合とは、また違う難しさというのもあるんでしょうか。

 そうですね。9イニングってなると、また違ったリードっていうのが必要になってくると思いますし。序盤の配球によって、打者の狙いも変わってくるでしょうし。当然、そういったことも試合の中で考えなきゃいけないですから。

──バッテリーを組む投手は、皆さん年上になります。気を使うことも多いと思いますが、心掛けていることなどはありますか。

 まあ、コミュニケーションは大事にしています。たとえば球を受けていて何か気付いたことがあれば、イニングの終わったあとに話したりはしています。特に一軍では、初めて組む人が多いというのもあって、とにかく、どうリードしたらいいのかなっていう難しさはありますね。

──森選手にとってバッティングは大きな武器だと思うのですが、たとえばバッティングで結果が出ると、守りにも気持ちよく入れるっていう部分はありますか。

 うーん……多少は。そういうのは、本当はダメなんですけど、多少はあるかなと思います。

──5時間を超える延長戦となった8月15日の日本ハム戦(西武ドーム)では10回に代打で同点の本塁打を放ったあと、平野将光投手とのバッテリーで2回を無失点。一死満塁から陽岱鋼選手を三振に取るなど、平野投手の強気のピッチングを引き出していたのが印象的でした。

 あのときは、もう、とにかく0点に抑えないといけないという気持ちが強かったんで。ホームランを打ったから気持よく入れたとかではないですね。あとは、ファームで組んでいたので、初めて組む場合よりやりやすいというのはありました。

──「打てるキャッチャーになりたい」とおっしゃっていますし「キャッチャーとして」という言葉をよく使っていますが、キャッチャーにこだわる理由は?

 キャッチャーしかやっていなかったんで。こだわりというよりは、キャッチャーしか守れないです。

──では、その面白さってどういうところだと考えていますか。

 やっぱり配球でバッターと駆け引きもできますし、そういったところは楽しいですね。

──森選手の場合、キャッチャーとしての考え方がバッティングにつながるということはありますか。

 いや、バッティングはバッティングで考えているので、特にキャッチャーとしての読みを生かすというようなところはないですね。

──今、ここまでプロとしてやってきた中で自分に点数をつけるとすると?

 50点くらいじゃないですかね。

──厳しい採点ですね。足りていない部分は。

 しっかり守ることが最優先ですし。まあ、打つ方にしても三振も多いですし、そのへんは直していかないといけないかなと感じています。

「ここまでは50点。まずはしっかり守ることが最優先」と語る



森友哉 2014年一軍打撃成績
9月9日現在
試合23 打数33 得点6 安打11 二塁打3 三塁打0 本塁打4 打点7 盗塁0 犠打0 犠飛0 四死球0 三振8 打率.333

森友哉 2014年二軍打撃成績
試合68 打数232 得点32 安打79 二塁打21 三塁打1 本塁打5 打点41 盗塁0 犠打0 犠飛2 四死球23 三振48 打率.341

PROFILE

もり・ともや●1995年8月8日生まれ。大阪府出身。170cm80kg。右投左打。大阪桐蔭高では1年秋から正捕手を務め、2年時には藤浪晋太郎とバッテリーを組んで甲子園春夏制覇。3年時にも春夏出場で4季連続出場。甲子園通算打率.473、5本塁打。高校通算41本塁打。2014年ドラフト1位で西武入団。球団の育成方針もあり、ルーキーイヤーの今季は春季キャンプ、開幕ともに二軍スタートだったが、イースタン・リーグで打率.341をマークし、7月27日に一軍昇格を果たした。
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